早稲田式用〔第1案〕
 
.速記教育における授業内容の推移
 早稲田式の速記養成機関では過去において、どういう科目が指導されていたのでしょうか。
速記教育機関の「入学案内」から授業内容を抜粋してみました。
 資料として古いものを紹介をしてみましょう。(※速記以外の科目については省いております)
 昭和43年度及び昭和44年度における早稲田速記学校では、下記の科目が指導されておりました。
早稲田速記学校(※東京)
 本 科(1年)
  速記法(基礎教程、訓練教程、技能検定試験受験指導)
 専門科(専門速記コース)(1年)
  速記法(速度訓練、反訳練習、整文法、実務速記演習、技能検定試験受検指導)
 研究科(1年)
  速記研究(速記法理論、速字研究、速記史)、速記指導法((速記指導法、指導実習、 実務速記)、教育心理学、教育原理
※昼間部のみ
 昭和55年ごろにおける大阪早稲田速記学校では、下記の科目が指導をされておりました。
大阪早稲田速記専門学校
 1年
  速記法総論(速記法の概念、速記用具の使用法、速記の実用的価値、速記の科学性、 速記の歴史)、基本速記法(基本文字、速記文法、速記文型、テープ速記法、簡略文字、 単語連綴法、要約速記法)、実習1(文章の速字化練習、漢字転記練習、録音技術、速 記編集、速記符号研究)
 2年
  高速度速記法(情景描写、各人簡略法、高等省略法、外国語速記法)、速記演習(メモ 速記、詳述速記、要約速記、依頼速記法)、記録様式と速記実技(議会速記、大会速記、 講演速記、口述速記、社内会議速記、商談速記)、実習2(文章の速字化練習、録音技術、 速記編集、要領速記、速記符号研究、実用語研究)
 
 上記のとおり、過去において指導者を本格的に養成した実績があるのは、早稲田速記学校(現在の早稲田速記医療福祉専門学校)だけです。
 昭和43年度の早稲田速記学校入学案内には「研究科」の説明に
 速記法をさらに徹底的に研究し、早稲田式速記の指導者にふさわしい人材を養成します。現在、拡大しつつある速記需要を前に、優秀な指導者は不可欠です。
 適応職種
 高校講師/インストラクター/速記教師などの道があります。
 昭和44年度の早稲田速記学校入学案内には「研究科」の内容にも
 早稲田速記の指導者を養成するために、速記をさらに掘り下げて研究し、あわせて速記の指導法を知識・技能の両面から学習する。
と書かれております。
 現在の早稲田速記医療福祉専門学校において、指導者の養成は行われていないようです。
 
.指導者養成の対象者について
 指導者養成の対象者は年齢、性別に関係がないことは周知のとおりである。最低限、下記の条件を満たしていなければならないと思います。
1)速記学校、教室、支部、塾等の卒業生
 速記学校、速記教室、速記塾、センター、支部、同志会、研究会、学習会、速記科などで、速記法、速記術のみを習得した卒業生。
 早稲田式関係の教育機関には下記のものがあり、青字は現在でも指導が行われている。
 早稲田速記札幌学院(北海道札幌市・岡本 登)
 日本速記教育センター(東京都新宿区・伊藤正平)
 早稲田速記医療福祉専門学校(東京都豊島区)
  ※旧・早稲田速記秘書専門学校(早稲田速記学校・堀部 明、外)
 早稲田速記池袋教室(東京都豊島区・浅見和男)
 早稲田速記銀座教室(東京都中央区・富永フミヨ)
 佐竹速記塾(東京都豊島区・佐竹康平)
  ※旧・早稲田速記お茶の水教室(東京都千代田区・佐竹康平、吉川欽二、外)
 早稲田速記渋谷教室(東京都渋谷区・羽生幸子)
 東京スクール・オブ・ビジネス(東京都千代田区・宮下かほり)
 産経学園速記科(東京都新宿区・花坂節子)
 横浜ビジネス・アカデミー(横浜市神奈川区)
 早稲田速記横浜教室(横浜市神奈川区・檜垣 喬)
 早稲田速記名古屋教室(名古屋市・桐山孝一)
 早稲田速記名古屋支部(名古屋市・桐山孝一)
 日本医療秘書専門学校(大阪府大阪市)
  ※旧・大阪早稲田速記秘書専門学校(大阪早稲田速記学校・石川吉正、外)
 早稲田速記大阪教室(東大阪市・福田好夫)
 早稲田速記京都同志会(京都市上京区・佐久間 直)
 神戸新聞文化センター(神戸市、姫路市、西脇市・山本一男)
 早稲田速記神戸研究会(神戸市生田区・山本一男)
 早稲田速記西宮研究会(西宮市・山本一男)
 早稲田速記西宮学習会(西宮市・山本一男)
 早稲田速記広島研究会(広島市・沢村治雄)
 熊本市社会人速記科(熊本県山鹿市・坂梨正昭)
 上記の各支部、同志会、研究会、学習会では「速記法」における全体系(指導をされた早稲田式の各速記体系を基準とする)が指導されていたかどうかは不明です。
 いずれの教育機関においても「速記史」に関しては指導されておりません。
※早稲田速記学校では「本科1年、専門科1年、研究科1年」
※佐竹速記塾では「ジュニア、シニアA、シニアB、ハイB」と言われております。
2)通信教育修了生
 早稲田通信教育センター(旧・早稲田速記普及協会/旧・早稲田式速記普及会)で行っている通信教育・全科コース(旧・総合技術課程/旧・専門課程)の修了生。
 「速記法」のみで、「速記術」に関しては各個人によって異なっており、「速記史」に関しては指導されておりません。
 早稲田式では昭和39年から本科、研究科をあわせて「総合技術課程」、昭和44年から「速習課程、専門課程」、現在では「速習コース、全科コース」と呼ばれております。
※いずれも速記法のみで、速記術に関しては各個人によって異なっております。
3)高校の速記部及び大学の速記研究会出身者
 高校の速記部及び大学の速記研究会出身者は速記法の全体系(指導をされた各符号体系を基準とする)が指導されていないと思います。
4)独習者
 早稲田式では通信教育が主流を占めておりましたのでで独習者は非常に少ないと思います。
 早稲田式関係の教科書類で市販されたのは、
  寺井美巳著「ワセダ実用速記読本」(昭和39年6月発行)言潮社
  坂間和男著「早稲田式速記入門」(昭和53年9月発行)南雲堂
川口晃玉著「入門 早稲田式 速記が書ける」(平成6年12月発行)早稲田教育出版
などがあります。
5)社団法人日本速記協会速記技能検定試験1〜3級合格者
 社団法人日本速記協会が行っている速記技能検定試験の1〜3級合格者。※1)〜5)までは共通ですが、中には例外があることを忘れてはなりません。
 速記が速く書けることと、速記を指導することとは別の問題です。速記がある程度速く書けることは当然のことですが、速記が速く書けなくても速記の指導が上手な指導者もおります。
 速記法の大家が必ずしも速記術の大家ではありません。逆にまた速記術の名人即速記法の権威とも言えません。速記法と速記術、この2つは似たところもありますが、本質的には全く別のものです。(私の知人で中には両方とも大家はおりますが……)
 幾ら実務経験が長くても、速記の指導ができない人もおります。
 要は速記に対する意識の高さが最も重要なことです。
 
.科目について
 速記指導者のほとんどが、速記法と速記術を習得後、学習者に速記法と速記術を指導しているだけです。
 速記を学問的な見地から考察しますと、技術的な知識しか持ち合わせていないように思います。速記史に関しては知識がほとんどないと言っても過言ではありません。
 指導者は速記法、速記術以外に速記に関したいろいろな知識を身につけていなければなりませんし、速記法、速記術以外の科目も学習者に対して指導しなければなりません。
 指導者として必要な「科目」を分類すると、下記の9科目になると思います。
1)速記法
 自己が習得した早稲田式速記法の法則体系。
2)速記術
 速記法を応用した技術的な面。
3)速記概論
 速記全般に関すること。
4)速記学
 速記文字を学問的に研究する学問。
5)速記方式学
 各速記方式の基礎的なもの及び速記方式史も含む。
6)速記史
 速記の歴史(日本史、西洋史)及び速記方式史。
7)速記指導法
 速記法、速記術の指導の方法及び指導実習も含む。
8)速記法研究
 早稲田式の各速記体系(速記法理論)。
9)速記実務
 速記実務に関する知識。
 以上の科目類で、速記概論、速記史などは速記学習中に習得をしておかなければならない科目です。
 また、「速記学」「速記指導法」「速記法研究」などは指導者自身が知っていなければならない科目ですし、学習者に対して指導しなくてもよい科目です。
 
.指導者養成の科目について
 指導者養成対象者と必要な科目との関連は下記のとおりです。
1)速記学校、教室、支部、同志会、塾等の卒業生
 速記概論、速記学、速記方式学、速記史、速記指導法、速記法研究、速記実務。
2)通信教育修了生
 速記概論、速記学、速記方式学、速記史、速記指導法、速記法研究、速記実務。
3)高校の速記部及び大学の速記研究会出身者
 速記法、速記概論、速記学、速記方式学、速記史、速記指導法、速記法研究、速記実務。
4)独習者
 速記法、速記概論、速記学、速記方式学、速記史、速記指導法、速記法研究、速記実務。
※1 速記学校、教室、塾などの在学中に上記の科目でいずれかを習得していれば、該当する科目は履修したものとみなします。
※2 独習者及び通信教育修了者で学習中に上記の科目でいずれかを個人で習得をしていれば、該当する科目は履修したものとみなします。
 通信教育では原則的に速記法の指導だけですが、受講者自身が速記史に興味を持ち社団法人日本速記協会から「日本速記八十年史」及び「日本速記百年史」を入手して速記史などを勉強していることもあります。
 まれにそういう人が実際におりましたし、高校の速記部出身者及び大学の速記研究会出身者にもまれにそういう人が実際におりました。
※3 既に実務速記者として数年間、速記に従事している者は「速記実務」を除きます。
 
.指導者養成の文献類について
 この「速記指導者養成計画案」において「指導者養成」をすることを想定してみました。
 下記に掲げた文献類は、指導者としての知識で必要最小限度のものばかりを列挙しております。
 速記指導者は下記の「文献類」ぐらいは手元にそろえておいてほしいものばかりです。全科目を暗記しなくても、一度でも読んでおくだけで、速記の指導をしているときには、いつかは必ず役に立つはずです。
 特に、速記法、速記史、速記法研究、速記指導法の科目は暗記をしておかなければなりません。指導者として、この4科目は特に必要です。他の科目については常識として概略を知っている程度でよいでしょう。
 特に、速記研究者は全科目を知っていなければなりません。
 指導者は自己が習得した速記体系の習得にとどまらず、書けなくてもよいから2〜3の方式を勉強することを勧めます。
 1つの方式を習得していれば、他の方式を勉強しても学習要領がわかっているので、余り苦にならないはずです。
 自己が習得した速記体系しか知らなければ、自己が習得した速記体系の短所や長所がわかりません。
 自己が習得した速記体系にのみ固執をしていると、時代にあった速記法則の研究もできませんし、時代に取り残された旧式の速記文字を指導することになります。
 
速記概論関係
速記概論
  大阪早稲田速記専門学校:兼子次生著(昭和56年3月20日発行)
速記ガイド(速記雑学事典)
  速記教育研究所:速記ガイド編集委員会(昭和57年10月28日発行)
速記と情報社会
  中央公論新社:兼子次生著(平成11年5月25日発行)
速記学関係
体験的研究ノート 速記における言語と心理
  有限会社ワードアート:佐竹康平著(昭和57年6月21日発行)
速記の科学
  速記文化研究所:兼子次生著(昭和57年9月16日発行)
速記研究
  速記文化研究所:兼子次生著(平成2年7月7日発行)
タンフォノピア
  速記文化研究所:兼子次生著(平成3年5月5日発行)
速記用語辞典
  紀州速記研究所:吉川欽二編(平成8年12月20日発行)
速記方式学関係
速記符号集
  社団法人日本速記協会:世話人代表・兼子宗也(平成5年9月1日発行)
現代国語速記法における速記符号文例集
  速記懇談会:編集責任者・兼子宗也(平成6年6月2日発行)
速記史関係
日本速記方式発達史
  日本書房:武部良明著(昭和17年11月25日発行)※復刻版があります。
舞台裏の現代史
  三一書房:竹島 茂著(昭和41年8月23日発行)
インテルステノ報告 速記者の国際活動の歴史と現況
  社団法人日本速記協会:向井征二著(昭和47年2月25日発行)
速記の歴史<西洋編>
  社団法人日本速記協会:向井征二著(昭和48年3月1日発行)
日本速記事始 田鎖綱紀の生涯
  岩波書店:福岡 隆著(昭和53年8月21日発行)
萬国速記史
  大阪早稲田速記専門学校:兼子次生著(昭和55年5月18日発行)
日本速記百年史
  社団法人日本速記協会:武部良明著(昭和58年10月28日発行)
ことばの写真をとれ 日本最初の速記者・若林玵蔵伝
  さきたま出版会:藤倉 明著(昭和58年10月28日発行)
早稲田速記五十年史
  学校法人川口学園:坂間和男編(昭和59年2月18日発行)
速記指導関係
速記要訣
  学校法人川口学園:吉川欽二著(昭和61年8月10日発行)
速記教育概論
  紀州速記研究所:吉川欽二著(平成6年8月発行)
速記講話 ―速記を教える―
  紀州速記研究所:吉川欽二著(平成6年8月発行)
速記講話 ―速記を考える―
  紀州速記研究所:吉川欽二著(平成6年8月発行)
速記の『儀式』
  紀州速記研究所:吉川欽二著(平成8年11月15日発行)
標準時間配分と基本練習
  紀州速記研究所:吉川欽二著(平成8年11月15日発行)
早稲田式速記法 基本文字ガイダンス
  紀州速記研究所:吉川欽二著(平成6年8月発行)
早稲田式速記法 省略法ガイダンスT〜V
  紀州速記研究所:吉川欽二著(平成6年8月発行)
早稲田式関係
早稲田式速記講義録 第1巻〜第9巻(※早稲田式のバイブルです)
  早稲田式速記普及会:川口渉著(昭和30年5月25日発行)
速記 総論・運筆編
  早稲田速記学校:早稲田速記学校教科書編纂委員会(昭和 年 月 日)
速記 速字編
  早稲田速記学校:学校法人川口学園早稲田速記学校(昭和46年4月5日)
速記 辞書編
  早稲田速記学校:学校法人川口学園早稲田速記学校(昭和53年4月5日)
速記要解 初等編/中等編/高等編/研究編
  吉川欽二著:(昭和57年6月28日発行)
早稲田式の研究
  吉川欽二著:(昭和63年8月1日発行)
速記テキスト ベーシックコース/パーソナルコース/セクレタリーコース/レポーターコー ス/ハイスピードコース
  大阪早稲田速記秘書専門学校:(平成3年4月1日発行)
速記テキスト STANDARDT〜U
  大阪早稲田速記秘書専門学校:(平成5年9月発行)
佐竹式速記 学習コース(※佐竹式のバイブルです)
  佐竹速記塾:佐竹康平著(昭和33年6月15日発行)
佐竹式速記 速習書
  佐竹速記塾:佐竹康平著(昭和35年5月15日発行)
佐竹式速記 ジュニア 理論編/実技編
  有限会社ワードアート:佐竹康平著(昭和56年4月10日発行)
佐竹式速記 シニア 理論編/実技編
  有限会社ワードアート:佐竹康平著(昭和56年12月1日発行)
速記実務関係
速記原稿のつくり方
  東京速記士会:宮田雅夫・佐竹康平著(昭和53年3月20日発行)
要点速記の問題点と処理法
  東京速記士会:武部良明著(昭和54年9月30日発行)
話し言葉にあらわれた用語について
  東京速記士会:野元菊雄著(昭和56年1月30日発行)
記録作成実務の要点
  速記文化研究所:兼子次生著(昭和59年12月発行)
速記実務のABC
  大阪早稲田速記秘書専門学校:吉川欽二著(昭和62年3月20日発行)
話の文章化のプロが振り返るテープ起こし時代の文章化技法
  速記懇談会(平成4年11月7日発行)
※このほかにも、紀州速記研究所では「速記文例集」「連綴・運筆辞典」「易誤文字辞典」 「速字典」「紀速テキスト 基本編/省略編/導入編/簡字編/文例編」などを発行しております。非常に参考になるので一読を勧めます。
その他
名士の速記観
  社団法人日本速記協会:前田英昭編(昭和45年9月1日発行)
寸志録 線に聞く
  同人方:吉川欽二著(昭和61年9月1日発行)
高速度速記奥義秘伝
  同人方:吉川欽二著(平成2年6月17日発行)
 早稲田式に関した文献類は他方式よりも豊富で充実をしておりますので、大いに参考にしてください。このほかにも必要な文献類が発行されております。特に速記指導者にとり「佐竹式」は必修科目です。吉川欽二さんは早稲田式、佐竹式に関した著作や研究書を多く発行されております。早稲田式の指導者は特に必読をするものばかりです。いずれも熟読をするだけで十分に理解ができます。
 以上、紹介した文献類は指導者として熟読しなければならない最小限度のものです。このほかにも参考になる文献類は幾らでもあります。
 上記の文献類はほんの一部分ですが、一度でも熟読をしただけで速記関係の知識がかなり得られることだけは保証します。
 上記に掲げた文献類におけるすべての内容を暗記することが理想的です。実際問題として各科目のすべてを暗記すること自体は容易なことではありませんし、よほど記憶力のよい人でない限りほとんど不可能でしょう。しかし、全部の文献類を一度でも熟読するかしないかでは大きな違いがあることだけは歴然としております。
 現在、我が国の速記界において指導者の養成機関はありませんが、他の各分野においては指導者の養成機関が充実をしていることを十分に認識しておいてください。
 昭和58年10月28日発行の「日本速記百年記念誌」及び平成15年5月14日発行の「日本速記年表/速記関係文献目録」の「速記関係文献目録」には、実にさまざまな分野の文献類が豊富に掲載されております。これらの文献類を再検討をして各科目ごとに分類をすれば、上記の科目になると思います。
 我が国の速記界は、速記学の分野を総合的に見ると、いまだ学問として確立をされておりません。各分野ごとに見れば高レベルの研究があることを忘れてはなりません。我々は、これらの文献類を大いに利用しない方法はないと思います。
 
.早稲田式の速記体系について
 早稲田式が発表されてから、今日に至るまで各研究者により、各速記体系が発表をされております。
 私は指導者自身が早稲田式内に「各速記体系」の存在を認識しておく必要があると思います。
 例えば、別の教授所で早稲田式を勉強してきた学習者を指導する場合に、「どこの教授所でだれに指導を受けたか」と聞くだけで、その学習者がどういう速記体系を使っているか大体の見当がつき、学習者の習得度に応じて、習得した速記体系のままで通すか、あるいは新たに速記体系を指導するかということになります。そこで速記体系を指導するときの仕方も変わってきます。
 もし、その指導者が「各速記体系」の存在を知らなかったと仮定をしてみましょう。
 別の教授所で習った学習者がその指導者のところへ指導を受けに来ました。指導者はその学習者の速記文字を見て、学習者が間違って覚えてきたと思い込んで、自分の速記体系を指導します。学習者の習得度によっては、学習者は速記文字を切りかえることになります。そして覚える負担が大きくなり頭の中が混乱をして速度が伸びなくなります。下手をすれば、その学習者は速記をやめることにもなりかねないことにもなります。
 早稲田式の指導者は各速記体系の文献に目を通して、各速記体系の省略法などにも精通をしておかなければならない。と強調をするのは、指導者は別の教授所で指導を受けた学習者が、自分の教授所に来た場合には学習者が使用している速記体系を把握しておかなければ、その学習者に向いた指導ができないからです。
 
速記体系における分類
 早稲田式研究者のYさんは早稲田式の体系を下記のように分類されております。
 早稲田速記学校昼間部の体系(堀部 明)
 早稲田速記学校夜間部の体系(伊藤正平)
 早稲田式通信教育における体系(川口 渉、寺井美巳、坂間和男ら)
 大阪早稲田速記学校の体系(石川吉正)
 早稲田大学邦文速記研究会の体系
 佐竹康平の体系(佐竹式)
などの速記体系があります。
 このほかにも体系が存在しますが、ほとんどが通信教育の体系や早稲田速記学校の系統と思います。私の手元に資料がないので実態はわかりませんが、文例を見る限りでは大差がないように思います。
これらの体系を総称して早稲田式と言います。
 
各速記体系についての説明
 Yさんが「早稲田式の各速記大系」について紹介をされているので引用します。
 早稲田式の体系についてちょっと補足しておくと、大阪早稲田の速記体系というのはもちろん創始者の石川吉正校長の速記体系なのですが、石川校長は早稲田式速記養成所で早稲田式の考案者・川口渉さんから直接速記の手ほどきを受けた、早稲田式では非常に古い方です。川口渉さんの一番弟子が佐竹康平、そしてその弟弟子が石川吉正さんと佐竹彦七郎さんで、この3人が早稲田式の三羽がらすだったようです。石川吉正さんが愛媛新聞社に入って早稲田速記普及協会から離れてから後も「早稲田式」はさらに進化しその高速度体系を完成させていったのですが、したがって石川吉正さんの速記文字はまだ完成され切っていない早稲田式だったということで、その後、必要な速記文字を自分なりに考えて加えたことから、石川吉正さんの使われていた速記文字というのは標準的な早稲田式に比べるとやや古く、またやや離れた速記体系であったと言えます。
 早稲田式の速記文字体系は幾つかの「流派」に分かれています。初めに発表された早稲田大学速記研究会はその後活動の仲で独自の符号を加えているし、東京の早稲田速記学校も、昼間部の堀部明教授と夜間部の伊藤正平教授とでそれぞれ速記文字体系が異なり、通信教育における速記文字もまた速記学校とは違った体系となり、傍系として札幌学院(※岡本 登校長)と大阪早稲田がやや違った体系を持っていて、それに加えて川口渉さんから離れた佐竹康平先生が無名系早稲田式(※早稲田系無名式ともいう)を名乗り、その後は佐竹式となって、再び早稲田式と方式合同して、両者の体系を合わせて「早稲田式」と改めて名乗ることになり、通信教育の教材にも「早稲田式速記研究編」として早稲田式の高速文字として佐竹式が使われるようになりということで、一口に早稲田式と言っても、その体系によりそれぞれによっていろいろな異なりが見られます。
 
.使用文献類について
 この「速記指導者養成計画案」において「速記指導者養成」をすることを想定してみました。
 実際の運用に際して使用する文献類を紹介してみましょう。
 下記に掲げた文献類は、速記指導者としての知識で必要最小限度のものばかりを列挙しております。
 いずれも熟読をするだけで十分に理解ができるものばかりです。
速記概論関係
 速記概論:大阪早稲田速記専門学校(兼子次生著)昭和54年3月20日発行
速記学関係
 速記研究:速記文化研究所(兼子次生著)平成2年7月7日発行
 速記の科学:速記文化研究所(兼子次生著)昭和57年9月16日発行
 速記用語辞典:紀州速記研究所(吉川欽二著)平成8年12月20日発行
速記方式学関係
 日本速記方式発達史:日本書房(武部良明著)昭和17年11月25日発行
速記史関係
 日本速記百年史:社団法人日本速記協会(武部良明著)昭和58年10月28日発行
 速記の歴史<西洋編>:社団法人日本速記協会(向井征二著)昭和48年3月1日発行
速記指導関係
 速記要訣:学校法人川口学園(吉川欽二著)昭和61年8月10日発行
 速記教育概論:紀州速記研究所(吉川欽二著)平成6年8月発行
 速記講話 ―速記を教える―:紀州速記研究所(吉川欽二著)平成6年8月発行
早稲田式関係
 各自が習得をした速記体系を標準とします。
速記実務関係
 速記実務のABC:大阪早稲田速記秘書専門学校(吉川欽二著)昭和62年3月20日発行
 記録作成実務の要点:速記文化研究所(兼子次生著)昭和60年3月6日発行
 速記原稿のつくり方:東京速記士会(宮田雅夫/佐竹康平著)昭和53年3月20日発行
 要点速記の問題点と処理法:東京速記士会(武部良明著)昭和54年9月30日発行
 以上、紹介した文献類は指導者として熟読しなければならない最小限度のものです。このほかにも参考になる文献類は幾らでもあります。
 上記の文献類はほんの一部分ですが、一度でも熟読をしただけで速記関係の知識がかなり得られることだけは保証します。
 我が国における「速記関係文献目録」は、下記の書物に掲載されております。
1.日本速記百年記念会の「日本速記百年記念誌」(昭和58年10月28日発行)
   明治16年7月から昭和57年11月まで発行されたもの
   169ページから222ページまで
2.日本速記百二十年記念会の「日本速記年表/速記関係文献目録」(平成15年5月14日発 行)
   昭和58年1月から平成15年1月まで発行されたもの
   69ページから115ページまで
を参照してください。
 この「速記関係文献目録」を見れば、参考になる文献類を幾らでも探せると確信しております。
 
.指導者養成方法について
 以下、中根式用と同じ内容です。
 中根式速記協会/中根速記学校の部分を早稲田速記医療福祉専門学校/早稲田速記通信教育センターと置きかえてお読みください。
 
  [ Index ]   [ Top ]