執筆者: deme7
(EPSEMS速記法考案者)
日本の偉大なる速記法 中根式速記法
EPSEMS式速記法は、『中根式速記法』の存在なくしては誕生しなかった。
日本の「数多くの速記法」に多大なる影響を与え、栄養素を与えたのが『中根式
速記法』である。
『中根式速記法』ほどオリジナリティに富む日本語速記法を私は知らない。 英
国ピットマン式を参考としつつも、日本語にどのような法則をどのように当ては
めるかという点において、実に効率的、効果的な設定がなされている。 この中
根式の『美点』についてのさらなる検証の余地は大きいと思われる。
私はこの 『中根式』の『中根康雄先生』に一から十まで、手とり足とり、懇切
丁寧に育てていただいた。 ユーモアたっぷりな人情味厚い先生から受けた、温
もり多き御恩は終生忘れ得ない。 初めて速記検定の1級に合格したのも、この
『中根式』を駆使してのことである。
また、長年にわたって個人メモ等に『中根式』を活用してきたが、この『中根
式』を駆使して得られる利便性、快適性は偉大である。 アメンボが水上を
「ツー、ツー」と移動していくかのごとく、右上、右下方向の浅い角度に「ツー、
ツー」と書線を優雅に伸ばすようにして書き進んでいく『中根式』の書きっぷり
は、実に気持ちのよいものでもある。
そして、この『中根式』を書いたり読んだりすること自体に、いつも心からの喜
びと誇りを感じてやってきた。 私はこの『中根式』が大好きである。
高等学校のクラブ活動でも盛んに行われており、国会速記士を初めとする多くの
実務家をも輩出してきた、我が日本の誇る大方式である「中根式速記法」。
成人の知識レベルへと到達する過渡期にある若き青年層にあっても、その多くが
着実に中根式速記法をマスターしていく。
高校在学中に速記検定1級(1級速記士)に合格していく例も決して珍しくない。
とにかく論理的な構成を持つ上に、多大な実績を有する速記法であり、まさに我
が日本の誇りである。
例え方が妥当かどうかわからないが、「早稲田式=文系、中根式=理系」といっ
た表現をしたくなるような感をも受ける。
漢字熟語などが中根式の「インツクキ法」により巧妙に速記文字化されていく理
論は、簡明であるとともに、見事である。
そして、少なくとも「石村式、EPSEMS式、長商式、V式、表象速記法、山
根式、早稲田式」等には中根式の「インツクキ法」の要素が入っていると言って
よいと思う。
中根式では、速記文字の頭部に「漢字音等」をあらわす円やフック等を、尾部に
「助詞等」をあらわす円やフック等を配し、見事に役割分担させているが、「こ
の両理論をよくぞ思いつき展開できたものだ」と驚嘆するとともに、このことは
「奇跡に近い」とさえ思ってしまう。
また、「訓音を漢音に変換して上段に書く、ラ行音のつく語その他の語の音の一
部を下段に書く、高頻出語の一部についてはその頭音等を最大線化して書く」、
等々の方法により言葉を簡便にあらわすなど、実にわかりやすく有効な速記法則
を展開していくのである。
その応用が広範囲に及ぶとともに現実的で学習もしやすいこれらの速記法則によ
り、一つの速記法としての一貫性、習得容易性を見事に確保している。
「基本文字に始まり、基本文字に終わる」と言われる中根式速記法。
「創案の妙」とも言える抜群のセンス、絶妙なバランスにより、速記文字として
有効な線を日本語の五十音にうまく配当している。
そしてこの基本文字を、合理性、論理性をもって生かすことにより、習得容易性
と実用性がうまくバランスされた速記法となっているかといった点において、日
本語の速記史上、間違いなくナンバーワンである。
中根式速記の速記文字には「濃淡の区別」というものが存在するが、これも中根
式の速記法則体系を現実のものとするための「必要悪かつ必要善」であると思う。
「単画方式」としての速記理論を「濃淡あわせ持つ基本文字」を土台にして、自
由に、伸びやかに、現実的に、実用的に展開していったパイオニアが中根式なの
である。
日本語速記の祖「田鎖式速記法」以来、登場した当初は当然ながら「新参者」で
あった「中根式」であるが、今や「日本語速記理論の要の一翼」を編み出した
「本家本元」でもある。
とにかく中根式速記法の法則体系は、実に明確で整然としており、基本文字を核
として一貫している。
一つの現実的、実用的速記法としての中根式の存在意義、存在価値は、その実績
も含め、速記界では十分周知の事実である。
そしてその教育実効性もまた、高等学校の速記部における成果、実績でも見事に
証明される。