最後に

 田鎖綱紀によって創案された初の速記方式は、その後いろいろな方式へと発展していきました。
 ここでは、その例として早稲田式を取り上げてみたいと思います。

 以下のお話は、絶対こうだというものでもありません。
 速記方式設計を手がけた者の1つの推論と解釈していただければ結構かと存じます。


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【 さ・た行の斜線化と正規・変規 】

 早稲田式のサ行及びタ行の基本文字は、田鎖式のそれが、書きやすくするため徐々に 斜線を採用するようになり、さらに連綴のしやすさに配慮した「正規・変規」という 方法論が熊崎式を経て、確立されました。


【 助詞にみる名残 】


 早稲田式の助詞符号、例えば「の・も・て・と・のに」は、田鎖式の符号に、そ のルーツを見ることができます。

 早稲田式の助詞の「の」は、田鎖式符号の非連綴形を崩したもの、と解釈できます。

 田鎖式の「も」の連綴形は楕円に結ぶので、どちらの向きでもよくなったことや、 非連綴形の「o」と「お」の長さを区別するようになったこともあるかとも思わ れます。

 早稲田式助詞の「で・と」については、田鎖式の非連綴形を見ると、 「ああ、そうだったのか」と膝を叩く人もいるかもしれませんね。
「のに」は、田鎖の「ね」の符号があてられています。


【 拗音や二音文字に流用 】

早稲田の「しゃ」は田鎖式の「さ」
「りゅ・りょ」は田鎖式の「れ」、
「にゅ」は田鎖式の「ぬ」、
「しぇ」は田鎖式の「せ」、
というように、それぞれ類似した音から流用されています。
その他、きょ、ちょ、こと、等々……

つぶやき

  • 結んだ楕円の方向性がだんだん消えていき、書きやすい形だけが残った。

  • 「く・す・ぬ・ふ・む・る」等に大円を採用し、楕円結びの線の必要性がなく なったので、あいたものを拗音等に当てはめた。

  • あいてる線を使った程度に解釈できるし、荒浪式や熊崎式等で採用されていた ものを早稲田式が取り入れたようにも見受けられる。

  • 創案者としては、自分の使っていた旧の方式からとりあえず抜粋して使うとい う傾向もしばしば見受けられる。

  • 基本の符号を変更したときに、それに伴って順繰りと入れ換えていくときに、 仮に置く符号というものもあり、それがあとで修正できないこともある。

  • すべてバランスよくぴったりとおさまるものでもないので、説明のつかない、 かなりええかげんなところがどうしても残る。