朗読音声  未熟だった少年の日

「えーーっ、またこれかよ」
 それは、今回で三度目の出題だった。
 中学2年生3学期、国語の期末テスト。
「次の漢字熟語の読み方とその意味を答えよ」という設問なのだが、前回の中間テストで出されたのと全く同じものが、今回も出題されていた。
 なんでそんなことをするのかは、容易に想像できた。それは、前回の中間テストでの正解率が余りにも低かったためだと思われる。

 一度目は正解できなくても、それはやむを得ない。しかし、採点結果の復習がきちんとできていれば、二度目には正解できたはず。そうした当たり前のことができていないのは、やはりまずい。

 さて問題の中身だが、その熟語は、「珍しい」という漢字に、重い軽いの「重い」という字が続いていた。
 私は自分の答えが絶対に間違いであることを確信しながら、こう鉛筆を走らせた。
「チンジュウ。珍しく重いこと」
 大体、答えている本人にさえ意味不明なのだから、正解のはずがない。そもそも、この答えは前回のテストでバツにされていることを記憶している。そんなことを覚えているくらいなら、正解となる漢字の読み方と意味のほうを記憶しておくべき。しかし、そうした勤勉さはあいにく持ち合わせていない。

「知らないことを知らないままに放置しておくと、後々困ることになるぞ」と、答え合わせのときに先生が言ったかどうかまでは覚えていない。が、社会人になってから、この熟語に出くわしたときには、あまりにも未熟だった少年の日を思い出し、ちょっぴり懐かしくなった。

 久々に国語辞典を紐解く。
珍重(チンチョウ) 珍しいものとして大切にすること」と書かれていた。(了)

速記符号原文 未熟だった少年の日 013.pdf(1,549Kb)
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