朗読音声 白雲愁色 『夏をあきらめて』
文:深代惇郎「天声人語」(昭和50年8月22日付)冒頭の一節 一匹のトンボが夏の終わりを告げるわけではない。一片の白雲が秋の到来を知らせるわけでもない。 しかし、里に下りてきた赤トンボをよく見かけるようになった。雲の風情も夕焼け空も、いままでとは違う。 そして高校野球の終わりは、夏の終わりを告げる。 「夏の終わり」には、客がいっせいに帰ったあとの食卓のような、むなしさがある。 「氷」のノレンがぱたぱたと鳴るときのような、白々しさがある。 夏の情熱を吹き込んで、ぎらぎら燃えていた太陽が、すべてが終わろうとしているのに、まだ無神経に輝きつづけている。 そのそらぞらしさが、夏の終わりなのだろう。 速記符号原文 「白雲愁色」天声人語より 014.pdf(1,586Kb) 朗読文音声 「白雲愁色」天声人語より 014.mp3(12,754Kb) |