此の中根式の速記術は、先年、武田千代三郎氏が発明せる単画式に一歩を進め、 且つ、多大の改良を加へしものにして、其特長中の主要なる一、二は
(一)音(おん)の類似せるものには類似せる線を避け、類音の文字の混同せざ るやう、安全なる字体を用ふる事。(武田千代三郎氏の式には、ピットマンに許さ れざる線を用ひあり、不便少なからず、此線は欧州にては、既に六十年前より、 速記用線として用ひざる事となれり。)
(二)漢字を音によりて大別すれば、「湖」「他」の如き一音のもの、及び「海」 「突」の如き二音のものに大体区別する事を得。而して二音のものの語尾は、大 体、インツクキの五音より成れり。されば中根式に於いては、此インツクキ中の 一音が語尾となる漢字(音)の書き方を簡単にせり。語尾が、インツクキの音よ り成る事は、氏の発見なり。而して、此インツクキの語尾を有する漢字を書き現 はす時は、語尾の頭部に書く。(即ち、逆に書く。)
日本にて行はるるガントレット式中、「クチシ」の語尾を現はす時、此逆書法を用 ふれども、中根式にては、全部の漢字に之を応用す。
(三)右の結果として、助字の書き方を簡略にする事を得。
(四)ラ行、サ行、タ行、カ行に於いて略記法を用ふ。
其他特色と認むべきもの少なからず。漢字にして二音より成るものが、二字重な る場合、即ち、「愛国」「大学」「新聞」の如きものの略記法は、京都の速記者中、 既に此式を応用しつつあるものありと。

 以上が大阪毎日新聞に掲載された記事です。この「記事」は原文のままですが、 漢字を新字体に直しました。

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