私自身は高校時代から速記教育に対して興味を持っておりましたので、速記学校在学中には速度練習だけではなく、速記の指導法も学習していたところが他の同期生とは違うところです。
■2004/02/10 (Tue) 速記講座 基本的な「速記法則」 |
中根式における基本的な「速記法則」とは、どのようなものでしょうか。
中根式の速記法体系を構成する場合には、おおむね下記のものが基本の「速記法則」になります。
1.基本文字
清音、加点字、濁音、撥音、半濁音、長音、拗長音、拗短音、詰音。
2.省略法(縮記法・略記法)
インツクキ法、助詞、上段、下段、口語助動詞、動詞、加点法、最大線、中間小カギ法、符省法、交差・平行法、数詞。
です。この基本的な「速記法則」は11個ですので、法則の運用方法と文例があれば、自分自身で応用していけます。
速記法則の学習方法は、「速記文字を覚える」のではなく「法則の運用方法」を覚えるための学習です。
中根式で「基本文字」という場合には、清音から詰音までを含んでおります。
上記の基本的な「速記法則」に上乗せした「速記法則」があります。これらの上乗せした「速記法則」には、時代の変化とともに新設されたり、廃止された法則が含んでおります。
テキストの作成作業では、基本的な「速記法則」を骨格にして、新法則などで肉づけをしていきます。
速記法則体系を「軽装備」「標準装備」「重装備」にするかは、速記学習者の「法則運用能力」によって使い分けます。
中根式創案当初には「加点インツクキ法」がありましたが、中根正世先生によって大幅に改良されておりますし、中根速記学校でも改良型を指導しておりました。
また「加点助動詞」、「下段」における口語助動詞の略字も改良されております。
中根速記学校の「速記法則体系」には、中根式関係者でも知らない速記法則があります。
上乗せした「速記法則」は、速記文字を簡単に書くための法則です。
暗記の苦手なタイプの人は「速記文字」を暗記するのではなく、「速記法則」を運用すると考えた方が、気持ちが楽になります。
速記法則の運用では「基本形」+「変化形」ということを覚えておけば、覚える量は少なくなるはずです。
■2004/02/09 (Mon) 拾い読み 速記法則の分類 |
谷田達彌著「速記の習い方」(昭和48年4月10日 初版発行)の「はじめに」には、
(前略)
速記技術の習得の段階には、初等、中等、高等という3つの段階があるというようによく言われておりますが、実際はそんなことはありません。ただ、次第に積み重ねていくだけです。その意味では初歩の段階が一番大切であると言っていいのです。この本の「実技編」は、いわゆる初歩から高等まで一貫して、一歩一歩進んでいけるように、例を挙げて説明してあります。
(後略)
と書かれております。速記方式によっては、基礎速記法(初等)、普通速記法(中等)、高等速記法。あるいは基本速記法、高速度速記法と速記法則を分けて使用されております。
中根式の指導者でも「高度な法則」という言葉を使用しておりますが、私は「速記法則は一貫しているものである」という考え方をしております。
強いて言うならば「基本的な法則体系」と位置づけております。中根式は各地の指導者によっていろいろな法則体系が構築されております。
テキストに掲載されている速記法則はあくまでも中根式の「基本法則」にすぎません。
テキストの法則体系だけで、これが中根式のすべての法則体系と思ったら大きな間違いです。
テキストはアマチュアの普及用に組み立てた法則体系ですが、少ない法則で間に合うという条件で作成されております。
中根式速記協会機関誌「速記時代」(昭和44年1月号 第149号 12ページ)には、○○速記学校の先生が、
(前略)
速記練習は3ヵ月ぐらいよりしていないとも聞いたが、以前大会案内請求のはがきに書いた速記文字を見ると、上段下段はもちろん、高度の省略法も利用しており、とても3ヵ月とは思えないが、速記に対しては異常なくらいの執念の持ち主であることは伺われる。
(後略)
と書かれております。プライバシー保護の観点から速記学校の先生の名前及び1高校生の名前は伏せておきます。
高校生にとって、上段、下段などは「高度な省略法」になるのでしょうか。
高校生といえども、個人差がありますが、いろいろな法則体系を指導すれば使いこなせる人もおります。
中根式の通信教育で指導をされている速記法則は高校生でも速度だけの問題ですが、速記法則は十分に使いこなせるものです。
■2004/02/08 (Sun) 拾い読み アマチュアの指導法 |
中根速記協会機関誌「中根式速記」昭和27年4月号(復刊第34号)に中村常行さんが「高校速記科指導の実際問題」と題してアマチュア速記に関する原稿を書かれております。
商業高校の先生ですが、当時は商業高校では選択科目として「速記」が指導されておりました。週2時間で年間70時間と書かれております。
週2時間として、年間では35週間が学習時間に配当されていたようです。
年間70時間の中で、速記をどのように指導をするか、という興味深い内容があります。
1.速記学として速記全般にわたって学習をなし速度の上達は考えない。
2.基本的な面だけの学習にとどめて70時間は速度の上達を重要視する。
3.略法は相当高度のものまで一応学習させておいてさらに2年、3年の研究欲のある人のために便宜を図る。
以上のいずれをとるかは地域の環境や、生徒の意欲によって定めなければならないが、、しかし速度の点を1年通じてみる場合、上位は分速300字、下位は分速50字ぐらいでこの開きに関する対策も問題となる。
と書かれております。
昔は文部省の「高等学校 学習指導要領」の商業教科・科目の中に「速記」がありました。昭和50年代に商業科目の中からはずれました。
第24 速記
1 目標
(1)速記の技術を習得させる。
(2)速記によって迅速、正確に記録をとり、事務能率を増進する能力と態度を養う。
2 内容
(1)速記の基本
ア 基本文字
イ 促音・撥音・長音・拗音
ウ 単語
エ 文
オ 反訳
(2)進んだ段階の速記
ア 省略の方法
イ 数詞
ウ 成語・成句と常用語
エ 文末
(3)速記の利用
ア 事務と速記
イ 談話の記録
ウ 講演・会議の記録
3 指導計画の作成と内容の取り扱い
(1)この科目においては、個々の内容について反復して練習させる必要がある。
(2)反訳の練習は、この科目の全般にわたって、常に行わせるように留意する。この場合、生徒の文章を書く能力をじゅうぶんに生かすようにする必要がある。
(3)練習の教材は、なるべく生徒に興味の多いものや商業に関する科目の内容に関連のあるものを取り上げることが適当であるが、同時に、語句を豊にすることにも留意する。
と書かれておりました。
公民館活動の一環として「速記講座」を開講する場合には参考になると思います。
「くの一筆法」という言葉をご存知の人は少ないと思います。これは師匠の造語です。
私がこの言葉の意味を聞いたのは昭和48年のことです。
師匠いわく
平仮名、片仮名、漢字で一番簡単なものは「く」「ノ」「一」であり、これを組み合わせると「女」になり、女忍者を「くのいち」と言います。速記は女性が多いので「くの一筆法」と指導をすると受けます。
うーむ。なるほどと感心しながら聞いておりました。
昭和45年11月に香川県立高松商業の速記部員から借りたノートの1ページ目には
速記
中根式速記(高校)くノ一 女 くの一筆法
インスタント速記(警察、自衛隊)
欠画文字
仏教 菩薩→サが2つ上下に並んでいました 地獄→土偏に犬
と書いてありました。師匠が昭和44年4月の新入部員に指導したノートです。ノートの持ち主はプライバシー保護の観点から伏せておきます。
私が昭和45年11月に書写したときにはノートに「くの一筆法」と書かれていた意味がわかりませんでした。
■2004/02/04 (Wed) 拾い読み ぼくの速記雑感 |
最近の早稲田式関係者でも「早稲田速記新聞」を知っている人は少なくなったと思います。
早稲田式の通信教育生の機関紙です。
創刊は昭和10年ですが、昭和59年4、5月号(第896号)で休刊になっております。
「早稲田速記新聞」昭和40年9月15日号(第546号)に、神奈川県・工業高校2年生K.Mさんの「ぼくの速記雑感」という原稿が掲載されております。中には大変興味深いことを書かれております。
(前略)
ぼくの友達に速記をやったのがいる。最初「速記の完全独習」という本で、次に「I式速記講座」でやったが、独習なので行き詰まり、その上2つの方式がゴッチャになったという。そして速記はやめた。彼が言うには「授業中に速記したのを家に帰ってから反読しようとしたが、全然読めなかった」とか。それも毎日勉強して……。これではやめたのも無理はない。
(後略)
で、投稿をされたK.Mさんは、通信教育を優秀な成績で修了されて昭和42年4月23日の全国社会通信教育大会で文部大臣賞をいただいております。
果たしてK.Mさんの、友達のように2つの速記方式を学習して頭の中が混乱するのでしょうか。
私がこの「早稲田速記新聞」を読んだのが中学3年生のときですから、私自身もその後2年半はそのように思っておりました。後からわかったことですが、私自身が早稲田式で練習しておりましたが、興味半分・遊び半分で片手間ながら中根式の通信教育を修了しましたが、頭の中は混乱をしませんでした。
たまたまK.Mさんの友人の頭の中が混乱しただけだと思います。
学習途中でも、他の速記方式を学習しても頭の切りかえは簡単にできます。
私の速記仲間には2つ以上の速記方式で書く人が何人もおります。中には5方式を自由自在に書き分ける人もおりますが、私が尊敬している大先輩は20方式を学習して、どの方式でも分速200字を書いたと聞いております。
速記実務では3方式を自由に操るという神業の持ち主です。
私が「早稲田速記新聞」を読んだ中で一番記憶に残っている原稿です。
その後、我が国の速記界ではK.Mさんの名前を聞きませんね。
■2004/02/01 (Sun) 使いやすいテキスト/使いにくいテキスト |
何式でも共通して言えることですが、テキストには「使いやすいテキスト」と「使いにくいテキスト」があります。
「使いやすいテキスト」
学習者が学習しやすいだけではなく、指導者も指導をしやすいテキストという意味も含んでおります。
速記法則を指導する順番も大きく関係してきますが、どの法則を先に出すかです。
例えば中根式の代表的な「インツクキ法」を指導するときには、基本文字(清音、N尾音記法、濁音、詰音、半濁音、長音、拗長音、拗短音)が終わった段階で指導をする順番です。
「使いにくいテキスト」
基本文字が終わった段階で、最大線→助詞→上段→下段→両大カギ省略(○ン○ン)→中間小カギ→交差・平行法→インツクキ法という順番では、指導がしにくいテキストになります。
インツクキ法と関連する法則には、最大線、上段、下段、中間小カギ、交差・平行法などがあります。
速記法則体系の全体的なことになりますが、法則を指導する順番は極めて重要ですので、基本文字が終わった段階でインツクキ法を指導することが望ましいと思います。
また、加点助動詞(スル、マス、マシテ、マシタ、ラレ、マショウ)を指導するならば、下段の口語略字における(スル、マス、マシテ、マシタ、ラレ、マショウ)などの速記文字を下段略字からはずしておきます。下段略字で覚えても、加点助動詞を学習すると、学習者には覚える負担がかかります。学習者自身どちらで書けばよいのか、迷うことがあります。
テキスト作成では速記法則を組み立てる順番が必要になってきます。
指導者は、使いにくいテキストで指導をする場合には苦痛を感ずるはずです。
吉川寿亮著「早稲田式速記詳解 基本編」中央大学速記研究会(昭和42年5月7日発行)には「指導者の心構え」について書かれております。
「指導者の心構え」は、速記方式を超越して共通しております。
1.学習者の立場に立て
2.自己流を出すな
3.常に自己の技術向上に努めよ
4.指導を自己の技術にプラスにせよ
5.要所をはっきりと教えよ
6.人間的接触を忘れるなかれ
いずれも、速記指導者としては必要なことばかりです。特に重要なことは1.5.6.だと思います。
「学習者の立場に立って、要所をはっきり教え、さらに人間的接触も忘れない」ことが大切です。
さらに私が作成した「速記指導上に必ず実行すること」を紹介しましょう。
※速記文字を指導するときには必ずノートをとらせる。
(ノートは常時、携帯をさせる)
※テキストは必ず1回分ずつ渡す。
(学習者が勝手に勉強することを防げる)
(学習者が脱落するとテキストがむだになる)
※主として速度練習に力を入れる。
(必要な速記用語、速記史なども指導する)
※縮記法、略記法は理解するまで何回でも説明をする。
(知らないのは、教えないことと同じである)
(「知らない」と「忘れた」とでは意味が逆である)
※時々、速記文字の指導をする。
(法則体系を習得するまではなるべく自己流を出さないようにする)
※練習中、書きにくい速字が出てきたら略字を指導する。
(略字がない場合はスムーズに書けるまで何回も練習をする)
(指導者は、必ず縮記法、略記法に精通をしておくこと)
※速記文字の添削はこまめに行う。
(速記文字と反訳文は必ずつけること)
※理論がわかれば、縮記法、略記法が幾らでも使えることを指導する。
(中根式は縮記法、略記法がわかれば応用をすることができる方式である)
(略記法の乱用は避けること)
※個人別に指導表を作成して管理する。
(個人差があるので、進みぐあいを把握しておく)
(指導内容、法則の指導、速度練習の記録など……必ず年月日を記入する)
などがあります。
■2004/01/29 (Thu) 速記指導者のタイプ |
速記指導者には下記のタイプがあります。
「速記学校編」
1.速記法則を詳しく指導するタイプ。
自分のノートを見ながら速記法則の説明をします。教科書に掲載されていない文例は、板書をしたり朗読中に説明をします。
毎年、速記法則の教え忘れはありません。
2.速記法則を簡単に説明するタイプ。
ノートを見ないで、いきなり板書しながら指導をします。
年度によっては、速記法則の教え忘れもあります。
「高校/大学速記部編」
1.顧問が指導をする場合。
速記に堪能な顧問が指導をする場合は、部員にノートを取らせます。
全体的に部員には教科書を持たせない方が多いと思います。
2.3年生が1年生を指導する場合。
これには2つのパターンがあります。
1)独自のテキストを作成する。
2)テキストを作成しない。
3)市販のテキストを使用する。
指導する3年生の指導力がなければ年々速記法則が少なくなります。3年間インツクキ法だけで終わってしまいます。
■2004/01/28 (Wed) 速記学習者のタイプ |
速記学習者には下記のタイプがあると言われております。
1.高度の省略法、縮記法を使いこなす。
数学、理科が得意で早くは書けないが美しく形の整った速記文字を書く人。
法則を理論的に考えるタイプです。1つの法則がわかればその法則をいろいろな言葉に応用する理論派タイプです。
いろいろな速記法則を覚えることが苦痛に感じない人です。指導者に向いているタイプです。
2.省略法、縮記法を最小限にとどめてどんどん書き込む。
文化系が好きで速記文字は多少汚くても書くのが早い人。
速記法則を覚えるのが嫌いな実用化タイプです。とにかく早く書ければよいという人です。
3.それらの中間。
どちらとも言えない人。
高度の省略法を駆使しながら、速記文字を書くのも早いタイプの人です。
この「高度の省略法」という基準はあいまいですが、中根速記学校の体系を基準に考えればわかりやすいと思います。
当サイトの「中根式速記法概要」は高度の省略法も多少入っております。