指導者自身が書いたことのない方式を指導すること自体、自信を持って速記指導に当たれないものです。また、同じ方式においても、速記文字をどのように処理するかは人によって違います。
■2004/01/08 (Thu) 速記講座 ツ尾音記法 |
武部良明著「日本速記方式発達史」(昭和17年11月25日発行)の203ページ23行目〜204ページ2行目に「インツクキ法」の説明が書かれております。
……「しこうして2音目の場合には逆記法を用いたのである」これが有名な「インツクキ法」となってあらわれたことになる。
氏は尾音の逆記形として、イ…大円 ン…小円 ツ…頭部小点 チ…有尾小円 ク…小カギ キ…有尾大円 を採用し、もってガントレット式の「チクシ法」の内容的拡張を行ったが……
と書かれております。また211ページ5行目から8行目にかけて
……中根式発表当時のような逆記形はその後どうなったかというと、中根正世氏に継がれてからは〔ツ〕の単群の最初に来た形(逆記されるので2音目に当たる)が小楕円に改められ、また〔ク〕の小カギが小角カギに変更された(通俗 中根式速記法)……
と書かれております。
武部良明著「国語速記史大要(下)」の6ページ7行目〜8行目にも
イ…大円 ン…小円 ツ…小点または空間 ク…小カギ キ…有尾大円または有点大円 チ…有尾小円または有点小円
と書かれております。
中根正親著「中根式 日本語速記法(中根式速記法講解)」(大正5年2月発行)54ページ10行目には
小楕円輪をつける
速記文字の文例にも「小楕円」になっております。
「日本速記方式発達史」で書かれている2音目のツは、頭部小加点(頭部加点)についての出典が明らかにされておりません。大正3年5月〜大正5年2月までの間に、「頭部加点」から「小楕円」へ変更されたと推測するしかありません。
2音目が「頭部加点」で、3音目以降が「尾部空間」になっていることは、図形的には一致をしております。
この「頭部加点」の方法は、中根速記学校で指導をしている「○ッ○リ」の書き方として中根速記協会機関誌「中根式速記」(昭和11年5月号)に紹介されます。
また中根速記協会機関誌「速記研究」(昭和16年3月号)に「加点字省略考」(ウスヌムル)として北村薀雄先生によって紹介をされております。
ほとんどの速記関係者は「○○式の本だから読まない」「速記方式が違うから読んでも意味がない」と考えております。
速記文字を学習するには、方式が違うから参考にならないから読まない、というのは大きな間違いです。
学習する速記文字が違うだけで、速度練習の方法は全く同じです。また、方式が違っても、速記文字以外で単語、短文、文例などはそのまま使えます。
速記文字を抜かして読んでも、速記学習には必ず参考になることが書かれております。
最近はインターネットの普及で必要な情報が簡単に入手できるようになりました。
速記関係のホームページも簡単に閲覧ができるようになりました。
当サイトでも、「速記関係」と「生涯学習関係」のサイトをリンクしております。
昔は、必要な情報を入手するには、いろいろな速記関係の本をあさりましたが、共通していることは速記の学習方法です。
他方式の速記文字のつなぎ方などを学習するのもおもしろいものです。
1つの方式を学んだだけではわからないことが多くありますが、他方式を見ることによって線に対する考え方が変わってきます。
速記学習では、どういう性格の人が向いているのか議論がわかれますが、アマチュア速記ならば特に問題はありません。
1.速記文字を覚えることが苦痛にならない。
基本文字だけは暗記をしなければなりません。
2.識字能力がある。
速記文字の長短、角度、曲線・直線の区別ができることです。
3.国語力は速度練習をしていれば自然と身につきますので、本人の努力次第です。
速度練習は単調なものですが、この段階を楽しく練習ができるかどうか。苦痛に感じるか、楽しく感じるかです。速度練習では個人差が出ますので、自分のペースで練習が継続できるかどうかです。
書けないときには幾ら練習をしても書けないので、辛抱強くコツコツ練習ができなければいけません。
4.速記法則を覚えることが楽しいか、苦痛であるかも将来的には大きく左右します。
■2004/01/06 (Tue) 拾い読み 速記の適正 |
石村善左著「石村式 速記講座 基礎編」(昭和48年5月30日発行)の60ページには「速記の適正」について掲載されております。
一体に優れた適正の持ち主は、最初からきれいな、正しい速記文字を書きます。これは確かな事実です。
ただ1つ、どうしても判断のつかないことがあります。それは、この人は一体速記が長続きするかどうかということです。これは書いているのを見てもちょつとわかりません。案外優秀だと見込んだ人が線香花火でしゅんと消えてしまったり、この人はそう期待できそうにないと思った人が、恐ろしくねばり屋で、最後まで頑張ってなし遂げた例もあります。
速記はどちらかというと、線香花火的な、いわゆる「好きやすの飽きやす」というタイプよりも「好きにくく、飽きにくい」「熱しにくく冷めにくい」タイプ、不撓不屈型の頑張り屋でないとだめなように思います。たたかれても、けられても、なおはい上がってくる根性の持ち主こそ、何ごとによらず、将来大をなす適正を持った人と言えるでしょう。
この一文は含蓄に富んでいます。
中には「熱しやすく冷めにくい」というタイプの人もおります。速記界では「たたき上げ」のタイプが、いつまでも速記に対する熱い情熱を持ち続けるのではないかと考えております。
■2004/01/05 (Mon) 速記講座 縮記法と略記法 |
速記法則は「基本文字」と「省略法」で構成されております。
「基本文字」は、速記の根幹をなすものです。基本文字が「単画派」「折衷派」「複画派」で速記法則の構成が変わってきます。
「基本文字」は、その方式の「顔」と言ってもよいでしょう。
昔は「基本文字」と「略字」だけで構成されていた方式がありました。
「略字」が多い速記方式は、学習が大変なことは言うまでもありません。頼りになるのは記憶力だけです。
中根式の速記法則は「縮記法」と「略記法」で構成されております。
「縮記法」は対象となる音をサイン化して、速記文字の画数を減らす法則です。
インツクキ法、各行縮記法などがあります。
「略記法」は、任意の音を抜き出して簡単に書く法則です。
中間小カギ、ヒモカギ法、交差・平行法などがあります。
速記は基本文字の上に「省略法」で構成されておりますので、速記法則を運用しながら書いていきます。
「省略法」が適用できない場合は「略字」をつくりますが、「特殊略法」というように法則化してしまいます。
各速記法則は約束事ですから、法則の運用方法(特色)がわかれば、該当する速記文字を当てはめていきます。
■2004/01/04 (Sun) 速記講座 速記文字カードについて |
「中根式速記法入門」で「カード練習」について説明をしておりますが、中根式関係ではいつごろから行われているのか文献調査をしました。
森 卓明著「超中根式速記法」(昭和6年12月5日 初版発行 京都速記研究所)の13ページから14ページに書かれております。
(※現代表記に改めました)
5 五十音字の覚え方
アイウエオの順序ならスラスラ書けるが、ふと任意の一音を言われたときには書けないということが初歩の間は多い。それは五十音図としては覚えているが、一字一字は覚えていないからである。ゆえに五十音どの音を言われても間髪を入れず、サッサッと出るようになるには五十音図の記憶と別個に次のような方法によって一字一字確実に覚え込む必要がある。
次のひな形のような、適当な大きさのカードを五十音字の数だけつくり、表面に速記文字、裏面に仮名文字を書いて、それをよく切って速記文字の書き方のときは、仮名文字を見て、読み方のときは速記文字を見て、見ると直ちに反射的に書けまた読めるようになるまで練習を繰り返すこと。
本方式は基本文字なかんずく五十音字が基礎であるから、これを十分覚えられぬうちに次に進んではならぬ。
と書かれております。
中根正世著「中根式速記」(昭和27年4月 初版発行 東京中根速記学校)の53ページには「速記仮名カード」について説明があります。
中根康雄著「速記マスターノート」(昭和48年6月25日発行)では「基本文字カード」と呼ばれております。
川口渉著「早稲田式速記講義録」(昭和30年5月25日発行)第1巻19ページ及び「早稲田速記講座」(昭和35年8月1日発行)第1巻の26ページにも「暗記カード」のつくり方が掲載されております。
昭和40年ごろには「暗記カードのシオリ」(A5版4ページ)の説明書と、「基本符号137」のカード(A5版4枚)がありました。線に沿ってカーッターで切ればできあがりというシロモノです。
「カード」の呼び方が違うだけですが、正確には「カード練習」がいつごろから行われていたか不明ですが、昭和6年以前に行われていたことだけは事実です。
■2004/01/03 (Sat) 管理人 その2 |
各分野の「管理人」について書きましたが、車/パソコンの「管理人」、釣りの「管理人」がおります。
車/パソコンの「管理人」の先頭ページには、下記の言葉が書かれております。
【道楽】それは 己を高めるための手段 である。
【道楽】いつも お小遣いは大切 に使いましょう。
【道楽】決して ただの無駄使い ではないのだから。
早速あなたも【道楽】を、極めましょう!その先には 至高の時が、待っているはずです!!
速記道楽にも、共通している部分もあります。
下記のサイト名はズバリ「管理人」です。
「管理人」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~s-blood/douraku/
※↑車/パソコン
「管理人」
http://cgi.f10.aaacafe.ne.jp/~strato/index.php
※↑釣り
■2004/01/02 (Fri) 書き初めについて |
1月2日は「書き初め」をする日ですが、書き初めをするのは書道の世界だけではありません。
速記界にも「書き初め」があります。書道のように大がかりにやりませんが、個人でやるものです。
速記界では「書き初め」を行っている人は少ないと思います。
手書き速記だからこそ「書き初め」ができる楽しみがあります。
内容は書道のように「お習字速記」だけではなく、速記の場合は「速度練習」も含んでいるところが大きな違いです。
速記の場合には「書き納め」というのもあります。
これは大晦日に「速度練習」をします。
1年間を「速記で始まり、速記で締めくくる」ということです。
■2004/01/01 (Thu) 新しい年を迎えて |
新しい年を迎えました。
大正3年5月10日に、中根式速記法が大阪毎日新聞に発表されてからことしで満90年になります。
我が国の速記界は121年の輝かしい歴史を有しております。速記界で90年の歴史を脈々と受け継いでいる方式が少なくなりました。
中根式は組織として「中根式速記協会」がありますが、90年の歴史を持っているのは中根式だけです。
明治15年10月28日に、田鎖綱紀翁が速記を発表されてから、数多くの速記方式が生まれては、自然消滅していきました。
なぜ、多くの速記方式が自然消滅をしたのでしょう。原因は下記のことが容易に推測できます。
1.時代に合った速記法則体系を構築できなかった。
2.指導者となるべき後継者を育成できなかった。
3.全国各地に支部等を設置して組織力を持たなかった。
等々が挙げられます。
幸いに中根式は多くの研究者・指導者・後継者に恵まれた方式です。
中根式は創案をされてから現在まで、基本的な法則(骨格)を変えることなく、新しい法則を肉づけしながら時代とともに進化してきました。
「速記資料館」の「通俗 中根式速記法」における“はしがき”及び“識者に檄す”の一文を読めば、中根正世先生が熱誠を持って速記の普及に専念されたことが理解できると思います。また中根式が目指した理念やスローガンなどが理解できると思います。
私も高校時代に中根正世先生の「速記の講演」を道立○○商業高校で聞きました。そのときの録音テープを大切に保存しております。