■ 2005/08/29 (Mon) 拾い読み 国語速記史大要
 武部良明「国語速記史大要(上)」(日本速記協会 昭和26年8月5日発行)の第1章 序説を紹介いたしましょう。
 
 速記史とは一種の歴史であり、速記活動の成長変遷を時の流れに沿って研究するものである。速記にはその手段となる速記方式、それを用いての速記技術、それらの成果たる速記文化などが考えられる。速記史を狭義にとればこのうちの速記文化史のみがこれに当たるかもしれない。しかし、速記文化そのものは、速記方式の発達、速記技術の発達などと密接に結びついているため、普通は、速記方式史速記技術史などと合わせ考えることになっている。言いかえれば、速記史という立場では狭義の速記史の他に速記研究史をも含めて扱うのが通例のようである。従って、国語速記史とは、国語を速記する目的を持って組み立てられた速記方式、国語を書きとどめる技術としての速記技術、それを教え速記者をつくる速記教育、及び国語速記に関係して生まれた一切の文化等を歴史的に考察するものである。
 海外で編まれた速記史としては、部分的な特別史を除いても、次のようなものを挙げることができる。
 Philip Gibbs:An Historical Account of Compendious and Swift Writing, 1736
 J.H.Lewis:An Historical Account of the Rise and Progress of Shorthand, 1816
 Isaac Pitman:History of Shorthand, 1847
 Scott de Martinville:Histoire de la Stenographie, 1849
 Fr.J.Anders:Entwurf einer allgemeinen Geschichte und Literatur der Stenographie, 1855
(中略)
 しかし、我が国では、これらに比肩し得るものとしてわずかに次の三著があるにすぎない。
 浅川 隼 日本速記五十年史 昭和9年
 武部良明 日本速記方式発達史 昭和17年
 三角治助 速記史年表 昭和21年
 
 英語速記における画時代的な功労者アイザック・ピットマンに対しては Alfred Baker
“The Life of Sir IsaacPitman”という392ページの書が出ている。しかし、我が国で国語速記における同じような功労者田鎖綱紀に対しては、わずかに有山|「日本速記術創始者田鎖綱紀翁」という78ページの書が出ただけである。
 これは、我が国の速記研究者が方式の研究に急なる余り、速記史にまで手が延びなかったためでもある。速記実務者が実務を退いて後、速記史研究などに没頭しなかったためでもある。速記関係者にして海外の速記事情あるいは速記研究事情に関心を持つ者が少なかったためもあるかもしれない。いずれにしても、我が国速記界としては非常に残念なことである。何となれば、速記史を研究する目的は、先輩の業績を理解し、速記そのものの本質を明らかにし、これによって将来へ指針を与えるに存するからである。これは速記を学ぶ者の当然求めなければならない知識であり、速記関係者の教養ともなるものだからである。
 我が国の速記史研究が未熟であることは、速記史の時代区分に関し定説のないことからもうかがえる。そこで本書は、明治元年を境に明治以前とそれ以後とに二分し、さらに明治を約15年ずつ、前期、中期、後期に分け、その後に大正時代及び昭和前期を区切るという、極めて大ざっぱな時代区分により各一章とした。これは各時代にそれぞれの特徴があることを予定したからではなく、記述に際しての全くの便宜主義にすぎない。何か画時代的であるかは、なお、今後の研究にまつべきものがある。
 
 

■ 2005/08/28 (Sun) 資料紹介 速記符号の統一について
 武部良明著「国語速記史大要(下)」の72〜73ページには、山田武八郎の「速記符号の統一について」が掲載されております。
 
第8節 複画派の改良研究
(前略)
 田鎖系の諸案は実務者の間に次第に整えられたが、その系統により種々の相違が見られた。この点に関し山田武八郎は「速記符号の統一について」なる論文を「日本速記会雑誌」第2号に載せ、次の点を強調した。
 1.少なくとも同一方式を修めたる速記者間においては速記符号が普通文字のごとくお互いに容易に読み得るようにならなければならぬ。
 2.まず現在の方式符号について実地応用の便益を比較研究してもってこれが統一を図り、これを大成したる後徐々に改良の方針に向かう。
 当時既に濁音表示法には加点法が主として用いられており、丹羽(※滝男)の次の書き方は丹羽式独特のものではなかった。
 例えば、キンとギンとを列叙的に綴る場合……またある発音例えば外国語など……加点法を用うるのである。(「実験速成応用速記法」)
 前後の関係で明らかな場合は濁音の表示をしないが、清濁の差が類義別語となる場合にはこの表示を必要とするため加点法を用いる。山田の意図は田鎖系の範囲においてその「相違の点を統一」するにあったが、濁音の表示法という点を見れば既に熊崎式までが同じ方法となっていた。しかし細部に至る統一はもはや不可能であり、統一田鎖式に関する理想は遂に実現されなかったようである。
 
※日本速記会機関誌「日本速記会雑誌」明治41年5月10日第1号を発行して、明治45年4月第7号まで続きました。
 
 日本速記会は、明治40年9月30日に発会式を挙げております。明治45年4月に自然消滅しました。
 田鎖式発表の26〜27年後(明治41〜42年)にも「田鎖式内の統一」は実現されませんでした。
 その後、田鎖系諸案を元にしていろいろな速記方式が案出されました。
 田鎖式直系でも、田鎖式2代目の田鎖 一によって、田鎖51年式、田鎖60年式、田鎖67年式、田鎖76年式と形を変えております。
 田鎖系複画派方式のテキストが発行されたのは昭和34年までです。
 
 

■ 2005/08/27 (Sat) 資料紹介 牧式タイプ及びソクタイプ
 武部良明著「国語速記史大要(下)」(日本速記協会 昭和27年2月5日発行)68〜71ページに牧泰之輔の「牧式タイプ速記法」と川上晃の「ソクタイプ」について掲載されております。
 
第3節 速記関係の諸機械
 (前略)
 カナタイプが略字を避けたのに対し、タイプライターによる速記方式の組織へと進んだのが牧泰之輔である。牧はカナタイプよりも一般的な欧文タイプを用いることとし、昭和18年「牧式タイプ速記法」をあらわした。それは次のような50音評を用いるものである。
 1.ア列文字には各ローマ字綴りの子音り小文字を当て、オ列文字はその大文字とする。
 2.イ列文字の〔キ〕〔シ〕〔ニ〕〔リ〕、ウ列文字の〔ク〕〔ツ〕〔フ〕、エ列文字の〔ケ〕〔セ〕〔テ〕〔レ〕は関係ローマ字1字をもって当てるが、他は普通のローマ字綴りとする。
 即ち、50音表44音中11字は2ストロークであるが、他は1ストロークとなっている。これを基礎に濁音は同じ行き方とし、拗音及び諸表示法の打ち方を定め、高頻度の略字を整備し、速記方式としての体系を整えたものである。
 これより先、ローマ字会を中心に欧米系ステノタイプの研究が行われていた。これに関しては昭和16年「ローマ字世界」に緒方富雄「ステノタイプの話」があり、川上晃はその実用化を目指し、国語速記用の機械とそのキーの用い方とを考案した。昭和25年に佐伯功介との共著になる「日本ステノタイプ」はこれを解説したものである。それは左右対称の22のキーによりタッチメソッドで印字するが、そのキー全てを一度に印字すると
“YTHKSAIOTK※INOIASKHTY”となる。
 ステノタイプでは一語を一打ちにする。例えば「顔」という語を速記するにはKAOの3つのボタンを一度に打つ。すると紙の上にはKAOとあらわれる。押したボタンから指を離せば、紙は自動的に送られる。(解説文)
 川上はこういう方法で同時に左手で1音節、右手で1音節、さらに両親指によるTKINで漢字音系尾音その他をあらわすようにし、他に助詞、助動詞、高頻度の略語等の打ち方を定め、これを速記方式としてまとめたのである。
 昭和24年1月1日施行の刑事訴訟規則には次のような条文があらわれた。
 第40条 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の尋問については、速記者にその問答を筆記させ、又は録音装置を使用してこれを録取させることができる。
 第47条 公判廷における証人、鑑定人、通訳又は翻訳人の尋問及び訴訟関係人の陳述については、第40条の規程を準用する。
 検察官、被告人又は弁護人し、裁判長の許可を受けて、前項の規定による処置をとることができる。
 ここに裁判所は速記及び録音機を取り上げることになった。最高裁判所としては速記研究費を獲得して一般速記事情を調査するとともに、その研究項目の1つとして前記川上のステノタイプに注目した。川上は書記官研修所の速記研究室において昭和25年よりステノタイプによる速記練習生の指導を行い、あわせてその研究の完成に努力しているわけである。
 
牧式タイプ速記文例(牧泰之輔「牧式タイプ速記法」牧速記事務所 昭和19年3月5日発行)
〔文例〕
KKj lxzi Qxk±o c9cu±tm・    awc・
ここに臨時 県会を 招集いたしまして、あわせて
 
ziq8jkxc 8=ハ qnqun5  dxQxN oq9sxo  MTmext4cgm 
時局に関し 緊急なる 案件の ご協賛を 求めんとする次第でございます。
 
※「牧式タイプ速記法」のテキストは謄写版刷りです。
 
<管理人>
※平成10年から裁判所「速記官」の養成が中止になりました。
※「はやとくん」「ステンチュラ」「スピードワープロ」については各速記サイトを閲覧してください。
 
 

■ 2005/08/27 (Sat) 文献紹介 藤木顕道の速記器 その2
 武部良明著「国語速記史大要(上)」(日本速記協会 昭和26年8月5日発行)47〜48ページに藤木顕道の「速記器」について掲載されております。
 
第9節 速記録と速記手段
(前略)
 一方には印字による速記器の研究も行われた。明治21年末よりら誇大な宣伝を始めた藤木顕道の「速記器」がその1つである。その構造は、小型の箱の上に帯状の紙を手前より向う側に巻き取るように装置し、箱の表面において、右手の五指にはめた印で印字しようとするものである。紙にはあらかじめ次のような順序で左から右に罫が引いてある。
 チウ、ぷ、ブ、しゆ、ジユ、や、ル、あ、ク、ぐ、ツ、づ、ス、ず、ム、ぬ、フ、う
 右手の各指にはめる院には各指ごとに3種あり、平声、復韻、鼻声をあらわし、五指がアイウエオの5母音をあらわし、これを必要な父音の書かれた紙の上に印字していく。理論中は可能かもしれないが、速記器としては極めて原始的なものである。そのため実務者も出ないままに終わり、徒に弁当箱というあだなで嘲笑されるにすぎなかった。もっとも、藤木が次のように書いたのは今日でも当てはまることである。
 本筆にて書するも器械にて印するもともに速記法なり。強いて区別を求むれば、文字速記者、器械速記技手というも可ならんや(「速記全書」)
 藤木は、エム・エル・バーソミュとか、ジー・ケー・アンダーソンなど米国における速記器発明者の名を紹介した。今日、これを調べれば、前者は1878年、後者は1885年、それぞれ印字速記器を発明した人である。従って、藤木には、印字速記の紹介及び研究という立場で、その史的意義が認められるわけである。
 「速記雑誌」第21号には、第二回帝国議会の衆議院速記者採用試験に関し「試験場の奇観(?)」なる短評を掲げた。
 速記器は弁当箱を携帯して(正午に至らずとも)コツコツやるべし、三宅某は、蓄音機を携え来たりて「諸君ヨー諸君ヨー」とオウム返しにやるべし、あに奇観ならずや。
 しかし実際には印字速記者も録音速記者も受験しなかった。速記者懇話会が解散したあとには、明治27年11月に速記同志会ができ、貴衆両院有志が中心となって速記者が結合した。しかしその会員は全て田鎖系の速記者であった。明治30年までに出版された主な図書と言えば丹羽滝男「独学自在日本速記法」、荒浪市平「速記之友」、若林カン蔵「速記術」、田鎖綱紀「新式速記術」などがある。しかしこれらはいずれも机上の空論にすぎない時代であり、記線速記の主流は全て田鎖系であり、一流実務者は全て田鎖系の方式を用いていた。田鎖綱紀が明治27年12月24日「公衆ノ利益ヲ興せし廉ヲ以テ」藍綬褒章を下賜されたのはこのためである。また29年5月13日「本邦速記術創始ノ功労ニ依リ」年金300円を終身下賜されることになったのもこのためであったと考えられる。
※三宅延三郎
 
 

■ 2005/08/26 (Fri) 文献紹介 藤木顕道の速記器 その1
 「日本速記50年史」の54〜55ページに藤木顕道の「速記器」について掲載されております。
 
第2章 田鎖式以外の新速記術の発達
 第1節 藤木顕道の速記器
 明治23年に速記法以外に速記器なるものの出現を見た。それはどんなものかというと、木製5〜6寸角のもので携帯に便、筆墨を要せず五指をもって原料紙を押せば直ちに紙面に日本仮名文字の配合にてあらわれるのみならず、同時に10枚以上20枚くらいは連写し得られ、しかも修業期はわずかに3日、習熟期は25日にして、速度は1分間347語直写するをもって普通速記術の3倍だというのである。大正9年に日本速記協会が二十日発会式を上げたときに田鎖綱紀の演説の一節に次のごときことがある。
 三浦謹之助氏がフランスのグレシャムの速記式の速記タイプライターを時の展覧会に出したことがある。あの機械よりずっと前にイギリスのアンダーソンのこしらえた小さい機械がある。これは原稿器(源綱紀)という名前で仮にこしらえてみた。そうすると私の門生の藤木顕道という者がまた1つこしらえて速記器学院というものを三田に置いて盛んに広告した。佃(※与次郎)さんだの林(※茂淳)さんだの皆さんがよく出かけていじめつけた。なかなかおもしろいことがあったが一名これを名づけて弁当箱という。速記器と言う者はないのです。なに弁当箱がと言う。今でもお年を召した方は弁当箱ということは御承知でありましょうが、その弁当箱の組織は父音字がアカサタナハマヤラワの箱をこしらえてあって、それにもっていって、母音のアイウエオの符号がこしらえてある。で炭酸紙の上に薄い紙を置いてKのところへ持っていってアがつくとカとなる。オの印がつくとコとなる。そういうふうに1行1音ずつやつたらよろしかろうというようなことを私が話した。ところがそれを事実にあらわしてやったのが弁当箱である。云々。
 この発明者藤木顕道は田鎖綱紀の日本傍聴筆記法を修めて後、明治21年多少その方式を変えて「淡線記音学」と命名して、明治21年神戸市下山手通6丁目に「大日本顕道学会」なるものを創設してこれを発表し、その翌年5月「淡線記音学実地練習自宅独習全書」なるものを出版し、盛んに広告利用の手段をとつたが、その毛塚は思わしからず、さらに案出したのが即ちこの「速記器」である。
 明治23年上京して芝区三田1丁目3番地に速記学院を開き、速記器の専売特許を得て通学生(束脩2円、教授料卒業まで2円50銭)及び自修生(束脩1円)に器具代3円50銭をもって教授を始め、在来の手書き式速記術を貶斥し、機械的速記の効用を列挙したる大々的の新聞広告をなし、また「速記の灯台」なる機関誌を発行してこれが宣伝に努めたものであって、一時は天下を風靡せんとするの慨があった。当時唯一の速記者団体「速記者談話会」においてこれが問題となって、若林カン蔵、林茂淳、臼井喜代松の3名を立会試験委員としてこれに当たらしめた。けれども藤木は言を左右にして巧みにその鋭鋒を避けておったが、遂にいたたまれずして関西に走ったが、もとより実用価値の存すべくもあらねばただ弁当箱の罵評に浮名をとどめたにすぎなかった。
 
 

■ 2005/08/23 (Tue) 拾い読み 中根式改変是非論
 中根速記協会機関誌「速記時代」(昭和34年1月号 No.31)に星野義男さんが「中根式改変是非論」――今後の中根式のあり方をめぐって――について掲載されております。
 
(問)いつでしたか、中根式で出しているステノ(※)に大変おもしろいことが出ていましたね。どうです、中根式はこのままの式にしておくのと、これをさらに一歩進めて思い切って基本文字を改造して新しい方式をつくったら……。
(答)これは、非常にややこしい問題ですね。多分これから中根式を改変して1つの方式をつくるということは、もうこのようなマス・コミ時代にあっては、必要ないんじゃないかナ。私も長い間、中根式を研究してきましたが新方式をつくるという時代ではないと思うんですよ。むしろ、現在の中根式は創案以来、変革を見ず一貫してきたという点に中根式の権威というか、不動性というか普遍性があるんではないかと思いますね。今の若い人達は、何かやってみたいんでしょうね。しかし、我々みたいに長い間速記を専門にやってきた者には余り、歓迎しませんね。そりゃ個人的にデスヨ。書きにくいところを研究してやるということは大いに必要ですけれども、今まで結構使えるものを改めて変更する必要もないんじゃないですか?
 基本文字の配列を変えてみたところで、全体から見れば結局同じなんですよ。だから私は高松の植田氏の論と真っ向から対立していますね。彼というと失礼ですけれど速記は芸術ではないんですよ。もちろん、美しい線を追求するということは書法上よいけれども、例え、これを改変して1つの新方式をつくってみたところで日本の速記方式は一長一短のそしりを免れませんね。要するに、速記法というものは、大体もう確立しているんで、要は日本語の問題ですよ。だから幾ら研究しても底なしですね。無限ですよ……(ハハハ)もう私は、中根式をいじくり回すことは止めました。
(問)中根式の統一問題は……。
(答)これだってね、できないですよ。戦時下の統制みたいになってしまいますからね(ハハハ……大いに笑う)また統一して文部省の検定みたいにしたところでしようがないんじゃないですか――。
 これはね、日本速記発達の経緯を調べれば容易にうなずけるのですよ。私は、統一には異論がありますね。難しい問題ですよ。こういう問題は、本部当たりでももっと寛大な気持ちで自由に研究させたらよいんじゃないですか――。
(以下、速記時代について書かれている省略)
※中根速記協会「速記研究誌」ステノNo.1(昭和32年8月4日発行)私案1“曲線カ行・斜線タ行”――または50音符号への整形術――植田 裕
※速記法則の部屋→植田裕先生の体系→曲線カ行・斜線タ行をご参照ください。
 
――関連資料――
 昭和33年?ごろに星野義男さんが「中根式速記方式論」を中根速記協会研究誌「ステノ」No.3(未刊行)の原稿として香川県支部へ送っております。星野義男さんの原稿が植田 裕先生の手元に保管されており、S・Kさんがワープロ入力したものを昭和59年10月21日にKさんからいただきました。B5版で28ページですが、「緒言」に下記のように書かれております。
 11月3日「基本文字に対する支部宣言」(※1)を中速協(※2)に送ったところ、同協会の江森氏より、この論旨をぜひステノに展開してくれまいか、との原稿依頼を受け、病床のつれづれ書いたのがこの所論である。
 これは、あくまで事中根式に関する私見であって、私の速記研究20年の体験経過より見たる、中根式に対する方式論と見た方が妥当かもしれない。
 もちろん、私の論の筋は、中根式が将来、基本文字、システムを含めて大変革を来した場合の想定のもとに、この方式にまつわるあらゆる観点より所論を展開してみた。
 また、将来、速記の専門面においての大変革、機械速記出現の場合における中根式の立場へも言及してみた。
 それらの場合を合わせ考えた場合の現行方式、そして特に中根式の理念論について一層強調してみた。
 従って、私の所論は将来への「想定面」であって、いわゆる「中根式速記方式論」なる標題を掲げたゆえんのものであることを特に断っておく。
 病床の記述、論旨中重複の箇所はお許し願いたい。
※1中根速記協会埼玉県支部。
※2中根速記協会の略称。参考までに中根速記学校の略称は「中根校」。
 ちなみに昭和34年当時は星野さんは39歳、植田先生は31歳です。
 昭和34年から46年が経過しました。約半世紀の歳月を経ておりますが、この間に中根式の速記法則は進化しております。
 また昭和31年、32年の「曲線カ行・斜線タ行」の法則体系も健在です。
 昭和33年8月12日に「即席速記法」が発表され、「簡易速記法」→「スピードメモ法」と名称を変えて今日まで引き継がれております。
 平成16年8月22日に「中根式21世紀型はやかな」が発表されております。
 現在、中根式ではいろいろな書き方が行われておりますが、いずれも「中根式」です。
 星野さんがおっしゃるように、中根式の統一は困難です。
 
 

■ 2005/08/10 (Wed) スピードメモ法について その2
 スピードメモ法を「速記雑感」でご紹介できるのは「繰り返し」までです。
 
 詰音、ツキイチクン、その他の省略は、「上つき」「下つき」の文字を使用しますので、ワープロソフトで作成して「本体」に貼りつけないとご紹介できません。
 
 基本的な考え方は平仮名と片仮名の読み方を変えて、上つき、下つきの文字を使用します。
 
 「速記資料館」“加点インツクキについて”をご参照ください。
 
 

■ 2005/07/29 (Fri) スピードメモ法
〔原則〕
片仮名……今までどおりに読む。
平仮名……普通の長音と拗音とに読む。
 
【ウ列、オ列】
 ウ列とオ列はウをつけて読みます。
う……ウウ  お……オウ
く……クウ  こ……コウ
す……スウ  そ……ソウ
つ……ツウ  と……トウ
ぬ……ヌウ  の……ノウ
ふ……フウ  ほ……ホウ
む……ムウ  も……モウ
ゆ……ユウ  よ……ヨウ
る……ルウ  ろ……ロウ
 
〔例〕
 飛行機  講義、抗議 効果 神戸 伊藤 加藤 使用
 ヒこキ    こギ  こカ こベ イと カと シよ
 
 移動 後藤 模様 思想 操作、捜査 相撲 東洋 交通
 イど ゴと モよ シそ  そサ   スも とよ こつ
 
 交通費 航空機 方法
 こつヒ こくキ ほほ
 
【イ列】
 イ列にもウをつけて読みます。
き……(キウ)キュウ
し……(シウ)シュウ
ち……(チウ)チュウ
に……(ニウ)ニュウ
ひ……(ヒウ)ヒュウ
み……(ミウ)ミュウ
り……(リウ)リュウ
 
〔例〕
野球 地球 呼吸 休暇 休校 公休日 要求 急用、急用
ヤき チき コき きカ きこ こきビ よき  きよ
 
周囲 募集 講習、公衆 補充 重要 報酬 注意 流行
しイ ボし   こし  ホじ じよ ほし ちイ りこ
 
ニュース ニューヨーク
 にス   によク
 
【エ列】
 エ列にもウをつけて読みます。
け……(ケウ)キョウ
せ……(セウ)ショウ
て……(テウ)チョウ
ね……(ネウ)ニョウ
へ……(ヘウ)ヒョウ
め……(メウ)ミョウ
れ……(レウ)リョウ
〔例〕
京都 京都市 京都府 東京 東京都 競争 競技、狭義
けト けトシ けトフ とけ とけト けそ  けギ
 
非常 通常 議長 市長 聴衆 料理 工業 商業 農業
ヒぜ つぜ ギて シて てし れリ こげ せげ のげ
 
調査課長 講習終了 要求
てサカて こししれ よき
 
【ア列】
 ア列はャをつけて読みます。
か……キャ
さ……シャ
た……チャ
な……ニャ
は……ヒャ
ま……ミャ
ら……リャ
〔例〕
社会  会社  社長 医者 お客  到着  省略  
さカイ カイさ さて イさ オかク とたク せらク
 
社長 華奢 
さて かさ
 
まとめ
【文章の書き方】
1.コノほほヲのトニおよシよ
2.コノ ほほヲ のトニ およ しよ
3.コノ ほほ ヲ のト ニ およ シよ
※分かち書きといって、2.3.のとおり離して書く方が読みやすい。
 
〔繰り返し〕
方法 ここ にこにこ ところどころ
ほヽ コヽ ニコ∧  トコロ∧
 
 

■ 2005/07/23 (Sat) スピードメモ法について
 昭和33年8月12日に中根正雄先生が、平仮名と片仮名を応用した「即席速記法」を創案されました。昭和47年9月に「簡易速記法」、昭和53年4月に「スピードメモ法」と名称変更して、現在では「スピードメモ法」という言葉が定着しております。
 
 中根正雄著「即席速記法」が中根式即席早書法出版社から昭和35年12月に初版が発行されております。
 内容は
 1.原則
 2.平仮名の読み方
 3.詰まった音
 4.ツキイチクン
 5.その他
  1)一般略法
  2)小文字略字
  3)特別省略法
などに別れております。片仮名と平仮名を読み分けて使います。省略法には通常の中根式に相当するインツクキ法、上段、下段、最大線、中間小カギを応用した省略法などがあります。
 昭和47年の「簡易速記法」、昭和53年の「スピードメモ法」は、さらに改良されております。
 私は高校時代にある事情で「即席速記法」を中根式のT先生にお借りして本を丸ごと書写して覚えました。
 「中根式を知っているので、説明をしなくてもわかると思います」とおっしゃいましたが、私は書写しただけで覚えました。中根式の速記法則を応用した書き方が入っております。
 中根式では「中根式速記法」と「スピードメモ法」は車の両輪です。
 
 

■ 2005/06/17 (Fri) 拾い読み 日本の速記
 「日本の速記」平成17年6月号に21世紀開発委員会の議論報告が掲載されております。
 
 議題6「みんなの速記」
【Q1】「みんなの速記」について、どのように考えていますか。(全体論として)
●新規創案は無理。既存符号のどれかを統一符号とする。
●統一は無理。各速記学校の意見を聞いて可能性を探ってはどうか。
●賛成。手書き符号はメモに有効。
●自分の使っている符号を教えればいいというのは安易。学ぶ側の環境に応じた適したものを。
●統一したものは必要ない。
【Q2】「みんなの速記」とは、どのようなものだと考えますか。
●覚えやすさだけでなく、楽しめ、プロ用にも耐えるものを。
●覚えやすいものを。普及を第一義に考える。
●覚えやすく、そこそこの速度に対応できるものを。「協会式」という位置づけで。
●短期間に学べて、効果の出やすいものを。著作権フリーで。
●特に考えたことはない。
【Q3】「みんなの速記」を実現させるとしたら、どのような方法がいいとお考えですか。(指導者選任、教材作成、講習会など)
●統一マニュアルをつくり、支部を中心に指導する。
●通信教育、eラーニングなど自宅学習を中心に。教室も必要。
●教材作成、宣伝は協会本部で。指導マニュアルの作成、指導者研修を行う。
●他の方式も知っている指導者が適当な方式を選定する。
【Q4】「みんなの速記」について議論するための小委員会設置についてどうお考えですか。(「みんなの速記」必要の場合のみ設置、とにかく設置して必要・不要論から議論、構成方法など)
●必要の場合のみ設置。
●わからない。
●設置は必要。
●必要との結論が出たら設置は必要。
【Q5】その他
●「みんなの速記」推進に賛成。統一方式による強力な普及は考えられないか。この問題だけで実際に集まって集中会議をしてはどうか。
●生涯学習の1つとしても必要。
●統一方式実現までにかかる時間を考えると否定的にならざるを得ない。
 
 「みんなの速記」については、決定したわけではありません。まだ、21世紀開発委員会で討論している段階です。
 この中で「教材作成、宣伝は協会本部で」という意見は、協会本部におんぶにだっこで、自分は何もしない、とも受け取れそうです。
 「みんなの速記」をつくる委員構成はどうなっているのでしょうか。「統一方式」をつくる、と言ってもどなたが担当するのか、委員を人選する方が難しいと思います。
 私は「速記方式」を統一しないで、学習者に2〜3の既存方式で、選択肢を残しておくべきだと考えております。
 「統一マニュアルをつくり、支部を中心に指導する」と言われても、全部の支部が納得?しないと思います。職域単位の支部、方式単位の支部もあります。
 昭和31年10月20日に日本速記協会の第2回速記教育委員会で「推薦方式」として11方式を決定しましたが、昭和32年5月27日の第3回理事会では承認されませんでした。
 第2回速記教育委員会で「推薦方式」として挙げられた方式で現在でも指導されている方式は3方式です。
 昭和34年度の速記教育委員会の委員まで決めておりましたが、「速記教育委員会」を開催せず、うやむやの内に自然消滅しております。
 「みんなの速記」もうやむやの内に終わりそうな気がいたします。
 
[ Index ]  [ Next ⇒ ]