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生涯学習における速記教育の展開
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この「原稿」は、財団法人実務教育研究所の文部科学省認定「生涯学習指導者養成講
座/生涯学習1級インストラクター(生涯学習)特別講習」の「第4回 レポート課
題」である。
「生涯学習」における「アマチュアの速記教育」についての展開方法を書いたもので
ある。
財団法人実務教育研究所「生涯学習1級インストラクター 特別講習 審査委員会」
では、「速記」に関した詳しいことがわからないと思ったので、従来の「速記」におけ
るイメージを変えるために「速記とは何か」ということから原稿を書いた。
幸いにして「第4回 レポート課題」は、平成14年2月6日に提出して「特別講習
審査委員会」の「審査」に合格をした。
はじめに
生涯学習における速記教育について書いてみたいと思います。
一般的に「速記」と言えば、特殊技術という技術的な面しか見られておりません。こ
れは狭義の意味における速記であり、我が国の速記界では「速記教育=プロ速記者の養
成」という思想が一部の速記者には残っており、文部科学省認定速記技能検定試験の1
級(分速320字×10分)及び2級(分速280字×10分)に合格をしなければ速記は役に立
たないという思想が根底にありました。これが一般の人達に対して速記が普及をしなか
った大きな原因ではなかったかと思います。
速記学習者が1級に合格をしても、全員がプロ速記者になるわけではありません。プ
ロ速記者にならなくても各業界において速記能力者が速記を利用できる分野は幾らでも
あると思います。
民間の速記教育機関(早稲田式、中根式等)では、プロ速記者を養成するとともにア
マチュア速記にも力を入れてきましたが、速記界ではいまだにその成果及び実態の把握
ができておりません。
広義の意味における速記は「アマチュアの速記」も含まれておりますが、文部科学省
認定速記技能検定試験の6級(分速80字×5分)及び5級(分速120字×5分)に合格を
した人達に対する速記の利用方法が教育をされておりませんでした。
アマチュア速記について
今日のような高度情報化社会における速記はプロ速記者だけの専有物であってはなり
ませんし、速記は我が国における知的な文化財産でもあります。
速記は言語をとらえるための「手段や道具」という思想から一日も早く脱却をしなけ
ればなりませんし、速記は「学問、教養、趣味」であるという思想を根底に持っておく
必要があります。
アマチュアの世界では、速記をしたものを国字に反訳をせずに速記文字できれいに書
き直しておくだけで間に合います。
私自身が過去において、速記をとった原文を後から速記文字できれいに書き直してい
た経験もありますし、後に国字(漢字仮名まじり文)での反訳が必要になったときに反
訳をすればよいという考え方を持っております。速記文字をきれいに書いておけば30年
後でも反訳ができます。練習次第では速記文字を国字と同じ速度で読むことができるよ
うになります。
アマチュア速記の場合は、文部科学省認定速記技能検定試験の3級(分速240字×5
分)及び4級(分速180字×5分)の実力があれば十分です。速記学習の程度によって利
用方法は幾らでもあります。プロ速記者養成を目的としなければ、速記法の全体系を指
導する必要もなく、初歩的な速記法体系だけで十分です。
3級程度の速記力ならば、口述・秘書、勤務先会議の要点速記。4級程度ならば講義
のノート、電話のメモ、原稿の下書き。5級及び6級ならば日記などの利用法が幾らで
もあります。
最近はパソコンが普及をしておりますので、高頻度の言葉や固有名詞に対しては速記
法則を応用した単語登録をする方法もあります。ほとんどの速記者は、反訳のときには
パソコンの単語登録機能を利用して入力の速度を上げております。一例になりますが、
わく=我が国、こみ=国民、けほ=憲法、かけ=関係、しの=私の/しかしながら、も
ん=問題、しきけ=財団法人実務教育研究所……などがあります。これらの方法は全速
記法の理論体系を知らなければできません。
アマチュア速記の指導は、4〜5人程度ならば自宅でもできますが、10人以上を対象
とすれば、速記サークルを結成するか、公民館で「速記講座」を開講する方法などが考
えられます。学習者の対象年齢は中学校1年生以上となります。
速記指導者の速記が書ける実力は大した問題にはなりません。長年プロ速記者をして
いても速記の指導ができない人もおります。極端な言い方になりますが速記の指導方法
を知っていれば速記の指導ができます。私は速記が書けなくても指導の上手な先生を知
っております。要は速記教育に対する情熱があれば速記の指導者になれるということで
す。
公民館「速記講座」における指導方法
市の教育委員会生涯学習課へ行き公民館の「速記講座」を開講するための交渉から始
まります。速記方式は中根式を指導します。私自身がテキストの作成もできるので、自
作のものを使用します。講座の1期間を6カ月に設定をすれば、週1回で2時間になる
と思います。計24回で48時間の内容となれば、指導をする速記文字も限られてきます。
基本文字(清音、濁音、半濁音、長音、詰音、拗短音、拗長音)程度になりますが、一
般の速記学習者には覚える負担を少なくした無理のない指導計画です。
1カ月目 1回目/清音の指導 2回目〜4回目/清音の復習(1線練習、カード練習、
単語練習)。
2カ月目 1回目/濁音、半濁音の指導、単語練習 2回目〜4回目/復習、単語練習、
短文練習。
3カ月目 1回目/長音、詰音指導、単語練習 2回目〜4回目/短文練習、速度練習。
4カ月目 1回目/拗短音、拗長音指導、単語練習 2回目〜4回目/復習、短文練習、
速度練習。
5カ月目〜6カ月目 速度練習。
以上が、速記講座における指導計画の概要ですが、速記の場合は講義よりも実技の方
が重視をされますので、2時間は質問の時間も含めて実技が中心になります。最後の10
分は次回に指導する内容の予告をします。
年齢や国語力によって速度的には個人差が出ることはやむを得ないことですが、これ
は学習者の努力次第ということになります。学習者には自宅学習用の教材も必要になり
ますが、学習者が自宅で毎日1時間でも練習をするのとしないのとでは学習効果が大き
く左右します。速度的には分速150字から分速180字は書ける速記法体系です。標準的な
学習目標は6カ月で分速150字ぐらいですが、分速240字を楽に書くためには、もう少し
省略法などの勉強が必要になります。講座終了後も継続して速度練習をすることが必要
なことは言うまでもありません。
今後の抱負
アマチュア速記の観点から考えると1週間に1回の授業では、なるべく落伍者を出さ
ないようにする指導が重要になってきます。特に速記文字の指導において学習者が理解
できるまで何回も指導をすることが必要です。実際には学習者のレベル(年齢、国語
力)によって上記の指導計画どおりには進まないことも想定をしております。自分で書
いた速記文字が正確に読めなければ意味がないので、特に基本練習が重要になってきま
す。基礎が固まらない状態で、省略法を指導しても速度練習では誤訳が多くなるだけで
す。
まず1期の講習期間を6カ月に設定をして、学習者には日常生活における速記の利用
法、速記のおもしろさなどを指導することはもとより速記に対する一時的な情熱ではな
く、継続的な情熱を持ち続けるように指導をすることも必要なことです。学習者が自主
的にサークルを結成して、学習者自身がサークルの運営をしていけるように指導するこ
とが生涯学習の基本ではないかと思っております。第2期目までの「速記講座」は期間
を6カ月ほどおいて1期生が中心になって活動ができる体制づくりが大切だと思ってお
ります。
私は特技ボランティアとして、速記学習に関する相談や、さらに中根式の全速記法体
系を深く学びたい人達に対して省略法も指導をしたいと思っております。私自身が36年
間にわたり学習を続けてきた速記に関する知識(速記史、速記学、速記法研究、速記指
導法等々)や技能などを大いに提供したいと考えております。
「教うるは学ぶことの半ばなり」という言葉を、常に私自身の肝に銘じて、これから
も速記学の自己研鑽に励みたいと思っております。
以上の「原稿」は、公民館の「速記講座」における指導内容を書いたものであるが、
指導経験がなければ具体的な内容が書けない。
また、文字数が3,600字以内に制限をされていたので、私が考えているような内容を思
うように書けなかった。レポート作成中には、行数(1行36字×100行)を数えながら、
何回も入力を繰り返して内容の変更をしていた。
字数制限をされている、原稿を書く難しさを改めて感じた。
1週間に2時間の講義では、なるべく実技を中心にして、次週の講義までに指導をし
た内容を極力忘れないような指導方法も考えなければならないし、1週間は学習をしな
いことも考えられるので、学習者が「自学自習」をするように指導をしなければならな
いと思う。
「速記学校」のように、年間の指導計画を立てて、毎日、授業を行う方が楽である。
授業についてこれない生徒は自然に落後していく。
特に「生涯学習」の観点から「アマチュア速記」を指導する場合には、なるべく落伍
者を出さないように指導をしなければならない。
「速記」の場合は、他の科目などと異なり学習者の個人差が如実にあらわれるもので
ある。