速記講座【37】 名作で学ぶ速記

最近、古典の名作を鉛筆でなぞっていくというような書物がシリーズで出版され ています。心を落ち着かせる意味で、般若心経の写経にも通じるのかもしれませ ん。

これは速記の練習にも応用できますね。自分の好きな詩歌・小説なりの文章を速 記文字でどんどん書いていくと、名言・名文を味わうと同時に符号を書く練習に もなります。全部の文章を書き込むよりも、気に入った文章を抜き書きする方法 がいいでしょう。特に冒頭部分は有名なものが多く、人々に親しまれているもの が多いようです。
 
  まずは、川端康成の「雪国」です。
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国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽 車が止まった。
 向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落した。雪の冷気が流 れこんだ。娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、
「駅長さあん、駅長さあん。」
 明りをさげてゆっくり雪を踏んで来た男は、襟巻で鼻の上まで包み、耳に帽子 の毛皮を垂れていた。
 もうそんな寒さかと島村は外を眺めると、鉄道の官舎らしいバラックが山裾に 寒々と散らばっているだけで、雪の色はそこまで行かぬうちに闇に呑まれていた。



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(1)  国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。       
(2)  夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。      
(3)  向側の座席から娘が立って来て、島村の          
(4)  前のガラス窓を落した。雪の冷気が            
(5)  流れこんだ。娘は窓いっぱいに乗り出して、        
(6)  遠くへ叫ぶように、「駅長さあん、駅長さあん。」     
(7)  明りをさげてゆっくり雪を踏んで来た           
(8)  男は、襟巻で鼻の上まで包み、              
(9)  耳に帽子の毛皮を垂れていた。              
(10) もうそんな寒さかと島村は外を              
(11) 眺めると、鉄道の官舎らしいバラックが山裾に       
(12) 寒々と散らばっているだけで、雪の色は          
(13) そこまで行かぬうちに闇に呑まれていた。         

(最初の松葉のようなものは始まりの、最後の×を○で囲んであるのは終わりの 記号です。また、「ユク」を「ユキ」に読みかえ、「イ・エ列」の左中央に点を 打って「から」としています。)