いざ、解読!


 ( ↑ 画像1 )
  「 眞崎大和鉛筆株式会社 」 製造による三菱ブランドの鉛筆




 ( ↑ 画像2 )
  速記文字らしきものがありますね。




 ( ↑ 画像3 )
 画像2の画像を回転してみました。
  ( 横書き3行、速記で何か書かれています。)



 
 私にとっては実に興味深い話題である。

 日本語速記の史料としても趣が深いものだと感心した。


 早速、解読 ( !? ) にかかった。

 最初、「 読めるかな 」 とも思ったが、ほぼそれとなく 「 こんなところでまず間違いなかろう 」 といった解読 ( !? ) に至ったので、以下に早速 … 。


1行目 : 速記用途で最適の鉛筆を製造いたしました。
2行目 : 各位御愛用のほどをお願いいたします。
3行目 : 眞崎大和鉛筆株式会社


 明らかに田鎖系の速記符号の味わいがにじみ出るような佇まいである。


 さて、解読 ( !? ) の詳細の主なものを以下に、これでもかと思い付くだけ書いてみよう。





  • 1…「 最適 」 の 「 サイ 」、長さは田鎖系の 「 カ、サ、タ、ナ … 」 などと同等なのか少し長めのものなのか分からないが、佃式系統でもある 「 モリタ式 」 ( いわゆる衆議院森田案 = 戦前のある時期、衆議院速記者養成所で教授されていたもの ) などでも使われているものが既に登場している。

  • 2…「 最適 」 をあらわす速記符号の加点部分 = 「 テキ 」。

  • 3… 鉛筆の 「 ピ 」 はパ行専用の直線符号なのか、それともハ行の曲線符号がたまたま直線的に書かれてしまったものなのかとも思ったが、やはり 「 鉛筆 」 と書かれた速記文字が2回登場しており、いずれもしっかりと直線と意識して書かれたものであるようなので、田鎖系の一部ではよく用いられてきたパ行専用の直線符号であろう。

  • 4…「 各位 」 の 「 カク 」 をあらわす右上方向の直線符号も、田鎖系でどの時点で使われるようになったのか私の中で定かではないが、衆議院式標準速記法 ( 以下、衆議院式と記す ) やモリタ式などでも用いられるものと同様と言っていいようである。

  • 5…「 御愛用 」 の 「 アイ 」 はそのまま 「 ア + イ 」 と書いているようで、既述したように、「 サイ 」 をあらわす専用符号はあると思われるが、「 アイ 」 をあらわす専用符号はない体系なのであろうか。

     それとも、この例にあって 「 ア + イ 」 というふうに、たまたま連綴したのであろうか。

  • 6…「 ほど 」 もモリタ式などで用いられるものとほぼ同様のもので興味深い。

  • 7…「 大和 」 の 「 ヤマ 」 の部分、「 ヤ 」 をあらわす符号と 「 マ 」 をあらわす符号の一筆化も、田鎖系で随分と古くから多く用いられてきたもののようで、衆議院式でも同様に用いられている。

  • 8… 最後に 「 株式会社 」 の部分、「 カ 」 の下から交差させるようにして 「 カイシャ 」 と普通に書く、つまり 「 カ + カイシャ 」 で 「 株式会社 」 と読ませているようにも思えるが、定かではない。

     だとすれば、田鎖系の一部で早くから使われてきた 「 カイ 」 をあらわす符号 ( モリタ式でも使われている = 右上方向の直線に円を付した形状 ) を短か目に書き、その後に 「 シャ 」 ( = 真下方向、左回転の曲線 = 若林玵蔵による速記符号系統の流れをも強くいただく衆議院式等々、多くがこの形状を用いている。 → モリタ式ではこの形状は 「 シャ 」 ではなく 「 ヒャ 」 ) を書いているようである。

     ちなみに、既述の生稻寅松氏が著した 「 速記術誌上講習 」 の刊行年は1929年 ( 昭和4年 ) で、「 ヒャ 」 は真下方向、左回転の曲線であり、モリタ式と同じである。

     したがって、今回の例にある 「 カイシャ 」 の 「 シャ 」 の部分が画像どおり真下方向、左回転の曲線であるとすれば、生稻寅松氏の符号とは異なることとなる。





 以上、とにもかくにも、時代の変遷が垣間見えて、大正 〜 昭和初期あたりの時代にタイムスリップしたようなロマンを覚える。

 今日からすれば古い時代の、とはいえしっかりと実用化されていたものとしての、手応え満点の頼もしい符号に魅了される。

 ちなみに、モリタ式に上記符号との共通点が多いのは当然である。

 モリタ式を組み立てていった森田章三氏自身が佃式から発し、衆議院速記者養成所で教授される中、五十音基礎符号を中心として複画派符号から折衷派符号への思い切った一歩を進めたのがモリタ式なのである。


 久々に、とてもとても興味深いものをお見せいただいた。

 お見せいただいてすぐに、「 あれこれと書いてみたいな 」 と食指を動かされるような話題だった。


 R.M氏も 「 こうしてみると、田鎖式系統の符号も、まだまだ掘り下げて調べてみる余地がたくさんありますね 」 とのこと。

 まさに、古きものであっても、その実質、ちっとも古くなんかなく、今日に至るまでの速記法のエキスをたたえており、それはまた、「 ぶっつけ本番、一回勝負 」 の実戦、実体験からのフィードバックとして改良、発展、生成されてきたものでもあるわけである。


 それにしても、R.M氏とのこれまでの長年にわたる速記談義、やり取りの中、私自身の感覚、感性、思いといったものが触発され、前へ前へと進む本能を刺激されることが多かった。


 感謝、そして感謝の思いとともに、R.Mさんには、この場でもひと言、感謝を申し上げたいと思います。

 ( R.Mさん、いつもありがとうございます。 これからも長きにわたって、よろしくお願いいたします。)
   deme7 拝