曲線に魅せられた男

 最近「日本速記方式発達史」(武部良明著)を再読していた際、丹羽式創案者 の考え方に関する一節に興味を感じるとともに、かつてここにも曲線に魅せられ た男のいたことを知り、意を強くした次第である。次に引用しておく。

 一体、私たちが直線と曲線と比べた場合、いずれが書きやすいだろうか、連綴 のことも考えに入れてどうも曲線の方が書きやすそうである。それならば曲線だ けで速記文字をつくったらうまくいかないだろうか。こう考えを進めてきたのが 丹羽滝男氏である。氏はかつて複画派の成長に力を尽くし前に扱ったごとく明治 40年、その母音符号を改めて丹羽式の発表を行った。〔第2図〕




 ……しかし「爾来ますます実験に実験を重ね、また諸般の方式を参考にして一 層研究を積んでみれば、なお改良の余地があるように思ったのである」氏は第2 の段階として当然その父音符号の改変に努力しなければならなかった。「縦直線 と横直線を、すなわちタ行カ行は我が邦語中、大多数を占めている発音であるに もかかわらず甚だ運筆上渋滞を招く分線を配当してあることであって、何とかこ の分線を除く方法がないだろうかということと、連綴上について1〜2改正を要 するところを発見したのである」そこで「今回の最新式は速記学上基本となるべ き音字は曲線をもってすべしとの新発見よりしてその原線を割り出し、線の連綴 上円滑迅速ならしむるように単に大小の結び方または撥放しをもって」しようと した(丹羽式最新実験日本応用速記法)―以上「日本速記方式発達史」より―

 かくて昭和2年丹羽氏は曲線ばかりの50音符号を発表し「発音統計より観察し て最も頻出するところのカ行タ行の縦横両直線を全廃し……その他も全部曲線に 改めた」のである。
〔第3図〕
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