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 今まで説明した書き方はいずれも、これから説明しようとする書き方の前提に すぎなかったのであります。加点インツクキは平凡な書き方をしては普通のイン ツクキに比較してかえって遅くなるのであります。もっとも前に説明したとおり、 加点インツクキ符号を省略して多少その力を発揮いたしましたが今度はさらに一 躍して1線にするの方法を講ずるのであります。

 ここに掲げてある例題(第4図)によって説明しますが、まず第一に「1」の とおり、位置によって、これをインツチクキに分けます。すなわち上下左右…… 著書「通俗 中根式速記法」によれば正側、負側によって区別してありますが、 とにかく上または左ということを基本として位置を定めてあります。イの位置は どこかといえば、上または左の頭部であり、ンの位置はどこかといえば、下また は右の頭部というわけであります。ツの位置はどこかといえば、上または左の中 部であり、キの位置はどこかといえば、下または右の後部の方であるというわけ であります。まず第一に、何はどことこということをはっきり覚え込むのであり ます。

 今例「2」の第一のとおり、テの字の左の頭部に加点インツクキのンの符号小 点を打ったといたします。これは一体どうなるかと申しますと次のとおりになっ ているのであります。

 第1音……テ……これは基本文字。
 第2音……イ……これは前記の位置によってわかります。
 第3音……○……これは何であるか不明。
 第4音……ン……これは加点インツクキのンの符号。


 従ってこれは「テイ○ン」ということになり、「○」の部分だけが何ともあら われていないのであります。そこでこの「○」は果たして何であるかといえば、 これは50音全部を当てはめてみるのであります。





というように、以下同じようにして50音を当てはめてみるのであります。そうし てみると、前後の文章によって、これが「テイアン(提案)」であるとか「テイ テン(帝展)」であるとか「テイシン(逓信)」であるとかということが自然に判 読されてくるのであります。もしこれが議会などで種々な議案を出す場合であっ たなら「各種の法律案をテイアン」であり、また画を出品するような場合のとき は「日本画をテイテンに出品」ということになり、あるいは「省」をつけて「テ イシン省」などと判読してもよいのであります。とにかくこの書き方は第3音目 が不明であるから、前後の文意によって判読するのでありますが、平素より使い なれた言葉に応用するのでありますから、「テイアン」くらいは議会の議事録な どで練習するのには容易に活用ができるはずであります。これは3音目が不明で あるからといって一々50音を当てはめて読んでいくのではありません。一々当て はめて読むなどはとても大変な手数がかかりますが、これを活用し得るような人 はもはや相当の腕前に達している人でありますから、別に一々当てはめてみなく とも大体よく使われる言葉にちょっと応用するのでありますから、普通のインツ チクキと同じように書けもし、読めもすると思います。ただし種々混同するよう な場合はもちろん応用することを避けるわけでありますが、その辺は自分の力に 応じて活用するのであります。


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