平成17年10月22日
気 に な る 速 記 文 字
―美しき線の流れを求め続けて―
誠 速記研究所 植 田 裕
私ども速記者は、毎日いろいろの言葉に接し、符号化しているわけですが、私の場合、
いかに簡単化するか、縮記法・略記法を駆使しながら、贅肉を切り落としていきます。
同時に、それは美への創造でもあります。
きょうは、最近、私どものまわりで出てくる言葉を取り上げ、それらがどのように簡
単に書かれていき、しかも美しさを兼ね備えたものになっていくかを、ご紹介したいと
思います。
また、60年余の昔、遭遇したある速記文字にこだわり続け、より簡単で、よりエレガ
ンスな符号が形成されていったかを、「美しき線のながれを求め続けて」という視点で
眺めてまいりたいと思います。
佐々木衆議院議員の「鳥インフルエンザ」
昨年4月6日深夜、TBSの深夜テレビ「アサジャーナル」を見ていたら、突然、
出演中の佐々木憲昭衆議院議員が、「実は速記ができるんです」とおっしゃる。
「じゃ、書いて見せてくださいますか」
「いいですよ」
というようなことになって、司会者がかたわらにあった新聞か何かを、かなりの速度で
朗読し始めた。
「猛威を振るっている鳥インフルエンザに対して、厚生労働省は」云々という文章で、
画面を見ると、何と中根式の速記文字。スラスラ書いていらっしゃる。
全文を読み返した後、「アイウエオのイは、こう書きます」と、書かれた符号の猛威
のイ、鳥インフルエンザの符号を示して説明されました。
感心したのは「鳥インフルエンザ」を何のためらいもなく交差法で軽く処理されたと
ころです。プロ速記者なら「鳥インフルエンザ」という略字は、あらかじめ想定されて
いるかもしれない。私なんかはまごついて、初回は全記法で処理し、2回目から何か簡
単に書こうとするだろうと思います。でも、適切な書き方は、結局は佐々木議員の書か
れた交差法によることになると思います。
早速、中根康雄先生に報告したところ、『日本の速記』2004.5・6 No.7923の12、
13ページに、「テレビの生番組で/衆議院議員の佐々木憲昭先生が/速記の腕前を披
露!」として紹介されました。