6.早稲田式の速記体系について
 早稲田式が発表されてから、今日に至るまで各研究者により、各速記体系が発表されております。
 私は指導者自身が早稲田式内に「各速記体系」の存在を認識しておく必要があると思います。
 例えば、別の教授所で早稲田式を勉強してきた学習者を指導する場合に、「どこの教授所でだれに指導を受けたか」と聞くだけで、その学習者がどういう速記体系を使っているか大体の見当がつき、学習者の習得度に応じて、習得した速記体系のままで通すか、あるいは新たに速記体系を指導するかということになります。そこで速記体系を指導するときの仕方も変わってきます。
 もし、その指導者が「各速記体系」の存在を知らなかったと仮定をしてみましょう。
 別の教授所で習った学習者がその指導者のところへ指導を受けに来ました。指導者はその学習者の速記文字を見て、学習者が間違って覚えてきたと思い込んで、自分の速記体系を指導します。学習者の習得度によっては、学習者は速記文字を切りかえることになります。そして覚える負担が大きくなり頭の中が混乱をして速度が伸びなくなります。下手をすれば、その学習者は速記をやめることにもなりかねないことにもなります。
 早稲田式の指導者は各速記体系の文献に目を通して、各速記体系の省略法などにも精通しておかなければならない。と強調をするのは、指導者は別の教授所で指導を受けた学習者が、自分の教授所に来た場合には学習者が使用している速記体系を把握しておかなければ、その学習者に向いた指導ができないからです。
 
速記体系における分類
 早稲田式研究者の吉川欽二さんは早稲田式の体系を下記のように分類されております。
  早稲田速記学校昼間部の体系(堀部 明)
  早稲田速記学校夜間部の体系(伊藤正平)
  早稲田式通信教育における体系(川口 渉、寺井美巳、坂間和男ら)
  大阪早稲田速記学校の体系(石川吉正)
  早稲田大学邦文速記研究会の体系
  佐竹康平の体系(佐竹式)
などの速記体系があります。
 このほかにも体系が存在しますが、ほとんどが通信教育の体系や早稲田速記学校の系統と思います。私の手元に資料がないので実態はわかりませんが、文例を見る限り大差がないように思います。
これらの体系を総称して早稲田式と言います。
 
各速記体系についての説明
 吉川欽二さんが「早稲田式の各速記大系」について紹介されているので引用します。
 早稲田式の体系についてちょっと補足しておくと、大阪早稲田の速記体系というのはもちろん創始者の石川吉正校長の速記体系なのですが、石川校長は早稲田式速記養成所で早稲田式の考案者・川口渉さんから直接速記の手ほどきを受けた、早稲田式では非常に古い方です。川口渉さんの一番弟子が佐竹康平、そしてその弟弟子が石川吉正さんと佐竹彦七郎さんで、この3人が早稲田式の三羽がらすだったようです。石川吉正さんが愛媛新聞社に入って早稲田速記普及協会から離れてから後も「早稲田式」はさらに進化しその高速度体系を完成させていったのですが、したがって石川吉正さんの速記文字はまだ完成され切っていない早稲田式だったということで、その後、必要な速記文字を自分なりに考えて加えたことから、石川吉正さんの使われていた速記文字というのは標準的な早稲田式に比べるとやや古く、またやや離れた速記体系であったと言えます。
 早稲田式の速記文字体系は幾つかの「流派」に分かれています。初めに発表された早稲田大学速記研究会はその後活動の仲で独自の符号を加えているし、東京の早稲田速記学校も、昼間部の堀部明教授と夜間部の伊藤正平教授とでそれぞれ速記文字体系が異なり、通信教育における速記文字もまた速記学校とは違った体系となり、傍系として札幌学院(*岡本 登校長)と大阪早稲田がやや違った体系を持っていて、それに加えて川口渉さんから離れた佐竹康平先生が無名系早稲田式(*早稲田系無名ともいう)を名乗り、その後は佐竹式となって、再び早稲田式と方式合同して、両者の体系を合わせて「早稲田式」と改めて名乗ることになり、通信教育の教材にも「早稲田式速記研究編」として早稲田式の高速文字として佐竹式が使われるようになりということで、一口に早稲田式と言っても、その体系によりそれぞれによっていろいろな異なりが見られます。

1 |  2 |  3 |  4 |  5 |  6→ |  7 |  8 |  Index