11.手書き速記に未来はあるのか
ワープロが出現した当時、ワープロとテレコさえあれば速記は要らないという速記不要論が速記者自身から盛んに出ておりました。現在ではワープロよりもパソコンの方が主流ですが、実務速記者にとりパソコンは従来の反訳手段にすぎませんし、テレコは速記の補助手段にすぎないものです。パソコンは速記者にとり、あくまでもペンと原稿用紙の代用品でしかありません。実務速記者が長年にわたる手書き反訳で得たノウハウを自在に駆使してパソコンで入力をしているからです。
世間一般ではパソコンとテレコがあれば速記は要らないと言われております。テープ起こしは速記の経験(実務速記者及び速記学習における過程)がない素人でも簡単にできると誤解をされております。実務速記者が作成した原稿と、素人が作成した原稿とはでき上がった原稿を見れば雲泥の差が歴然としております。
実務速記者でも現場に出ないで、テープだけで依頼をされた反訳は容易なことではありません。まして、速記を知らない素人がテープ起こしをすること自体が容易な作業ではないはずです。
平成3年に早稲田速記が開発をした「ステノワード」があります。現在では「スピードワープロ」と呼ばれております。テレビの生番組やニュース等で同時字幕入力を行っております。
また裁判所の速記官が開発した「はやとくん」というリアルタイムで反訳する機械方式が第一次反訳段階で実用化しております。
私は機械速記については否定をしておりませんし、機械速記も速記の一部分と考えております。手で書くか、機械で打つかの違いだけです。
これらはあくまでも実務速記者の世界のことです。機械速記を使用することにより、従来の反訳時間が短縮をされることは実務速記者には魅力的なことです。現在、長年手書き速記を使用してきた実務速記者の一部の人達の中には「はやとくん」を練習し、機械速記に移行しようとしております。
アマチュアの世界においてはどうでしょうか。アマチュアの世界では「はやとくん」のようなリアルタイムの反訳が必要でしょうか。
アマチュアの世界では、速記をしたものを国字に反訳をせずに速記文字できれいに書き直しておくだけで間に合うのではないでしょうか。
私自身が過去において、速記をとった原文を後から速記文字できれいに書き直していた経験がありますし、後に国字での反訳が必要になったときに、反訳をすればよいという考え方を持っております。
現在、我が国の手書き速記は危急存亡のときであると言っても過言ではありません。昭和58年10月28日の日本速記発表百周年のときから、既にその兆候が出始めております。
我が国の速記界は日本速記発表百周年のときから、既にその対策を講じておくべきでしたが、我が国の速記界が、いかに対応が遅かったかを物語っております。
このままの状態で速記界が推移をすれば、機械速記だけが残り、手書き速記は消滅するでしょう。そして手書き速記は博物館へ行くか、考古学の分野になってしまうことだけは必至の状況です。
現在の我が国には「〇〇保存会」という団体があります。いずれ手書き速記も「手書き速記保存会」へ行く運命をたどるのではないかと懸念しております。
我々、手書き速記者自身が「手書き速記保存会」という団体をつくらないためには、速記に対する意識を向上させることはもとより、後世に手書き速記の後継者を残すという使命と自覚を持ち、アマチュアに対して手書き速記を残していかなければなりません。
今日のような高度情報化社会における速記は実務速記者だけの専有物であってはなりませんし、手書き速記は我が国における知的な文化財産でもあります。
我々はプロ・アマを問わず、手書き速記は言語をとらえるための「道具や手段」という思想から一日も早く脱却しなければなりません。我々は手書き速記を常に「学問、教養、趣味」であるという思想を根底に持っておく必要があります。
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