謝恩搭


 幾多の研究が発表されながらも、50音符号に関する研究は非常に少なく、またあったとしても、最初に紹介したように、原型の 面影を崩さない程度のものであるのはなぜだろう。池田氏の言うように(1)新しいシステムに習熟するのがまず問題(2)次に社会的信 任を得るための経済、精神両面にわたる苦労の点、この2つの点が、それをなさしめないのであろう。殊に新しいシステムをつく り出すためには、机上の理論だけではだめで、研究者自身相当高度の速記ができなければならず、実務についている場合には、50 音符号中1符号でも改変しようものなら、実務に差し支えるので、少々自己の修めた符号に不便を感じても、目をつぶってしまう のが実情であろう。
 さらに私は池田氏か挙げなかった、もう1つのブレーキが存在することを否定できない。それはかつて森 卓明氏がいみじくも その著書「超中根式速記法」で述べたように、自己が現在修めている方式の創案者に対する精神的なつながりの面である。森 卓 明氏が述べた一文を引用しておこう。

 この50音図に対しては非常に敬意を払い、永久に変更しないということが何より我々学徒の義務であらねばならぬ。いかなる式 でも50音図は創案以来たびたび改変されている。創案者も変更すれば学徒も改変する。しかるに中根式においては発表以来17年間 (筆者註=現在では40数年間)1回の改変もしない。これは非常な強みであると思う。願わくば今後とても多少の不便はあっても 永久に改変せられざむことを、これ創案者に対する何よりの記念碑であり、謝恩塔である。


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